社会調査工房オンライン-社会調査の方法
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6-1 資料を探索することとは
6-1-1 百科事典を使おう


 私たちが、関心を持ったテーマについて調べてみたいと思ったときに、まず何をみるであろうか。もし、それに関する本や雑誌を自分の部屋に持っているのなら、それを調べることであろう。でも、自分にとって新しい関心であるなら、自分の蔵書の中には、適当な本がない可能性が高い。しかし、百科事典を持っているなら、まずはそれにあたってみるのが早道である。家に百科事典もないのであれば、次に戸外の図書館に行くかも知れないが、そこでも最初に百科事典をひくことから始めるのは、効率的である。
 百科事典は、多くの小項目だけからなる辞書とは違い、大中小項目を併用している。だから小項目主義の国語辞典では索引はないが、百科事典では索引が必要となる。ただし、年鑑とは異なり、時事的な項目については掲載されていない。それでも、『世界大百科事典』(平凡社:社会学科共同図書室蔵)では、本項目で7万余り、索引項目ではおよそ30万もある。短い言葉の定義程度の説明しかない国語辞典でも、多くて7万あまりである。また本が多い家庭であるといっても、その蔵書を項目に換算すると千桁のオーダーが精一杯である。それらから言えば百科事典は、かなりの事柄について、ある程度の質料の情報、(小松左京氏の言葉でいうと、人類の「知的蓄積の大ざっぱな全体像」)を、身近な手元で提供してくれるのである。
 諸君は大学生である。大学も学校であるから先生がいる。当たり前だ。一般に学校での勉強は先生に導かれてやることになっている。分からないことがあれば、先生に聞けば良いではないかと考えるかもしれない。先の事例で紹介されていたように、人的ネットワークを活かさない手はないと・・・。
 先生というのは、わが社会学科に限らず一般に親切であり、分からないことを質問すれば、適切な答えを教えてくれるだろう。難問にぶつかれば相談にものってくれるものである。それで十分だと、君たちは思うだろうか。そうだとすると、君たちは甘い!
 第一に、先生は超人ではない。ぼくが祭りやイベントの専門家だからといって、アカマタ・クロマタの呪文を教えてと言われても困るし、今年のコミケがいつどこであるの?と聞かれても困る。知らないことの方が多いのである。
 人間が人生の中で学ぶべきことの内、先生から学ぶことができるのは、ほんの一握りにすぎない。そもそも、自分の勉強したいことを先生に頼ろうという態度が、根本的に間違いである。人間が一生を通して学ぶことの大部分は独学による。自分一人で、関心のおもむくままにテーマを決め、探求していく。それが人生を自分の力で生きるということなのだ。先生とは、時に変なアドバイスをすることもある。そういうときは反面教師というのだが、それも含めて、先生は、あくまで自己探求の刺激剤としての役割をしているにすぎない。
 百科事典は、まさにそんな君たち独学者の手引きなのである。自分の考えているテーマの参考書を、安易に先生に聞く前に百科事典を見よ!そして、その項目に参考文献が上がっていれば、それを図書館で調べる。その項目の著者の本も、調べたテーマの専門家のはずだから、その著作を図書館で調べる。さらに、調べた本にあげられていた参考文献を、同様にして調べる。このような方法を芋蔓式というのであるが、これでけっこう、自分が調べたいテーマに関する基礎的知識が集まるのである。この方式を会得すれば、君たちはもう社会に出ても、何とか自力で必要な調べごとをやっていける、そして知的に進化していくことができるはずである。・・と思う。

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