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原価計算 長坂悦敬
第2章 原価概念:目的によって原価の内容が異なる

2-2  原価の分類

原価を分類する理由

会社でたった一種類の製品しか製造販売していないのなら、材料費、労務費、経費というような区分はまったく必要なく、すべての費用を足し合わせて、製品の数で割れば原価を簡単に割り出すことができる。
しかし、通常は、製品が複数あり、それぞれの製品ごとに材料費、労務費、経費の額が異なる。個々の製品1個の原価がわからなければ、どの製品が高くて、どの製品が安いのかということもわからない。原価をより詳しく分析するための分類法としていくつかの方法がある。

制度としての原価計算

非原価項目

制度としての原価計算は、計算上さまざまな制約を受ける・・・そのひとつが非原価項目
原価計算制度で用いられる原価概念は、損益計算の費用概念と比べると非原価項目の分だけ狭い。
損益計算上の費用=原価計算制度上の原価+非原価項目

非原価項目

  • 経営目的に関連しない価値の減少:投資資産(不動産、有価証券など)、未稼働の固定資産、長期にわたる遊休設備などの減価償却費、管理費、租税などの費用、政治献金、寄付金など経営目的に関連しない支出、支払利息、割引料、社債・株式発行費償却などの財務費用、有価証券評価損および売却損
  • 異常な状態を原因とする価値の減少:異常な仕損、減損、棚卸減耗、自然災害やストライキなどの偶発事故による損失、臨時の償却費、延滞償金、違約金、訴訟費、固定資産の売却損、貸倒損失
  • 税法上とくに認められている損金算入項目
  • その他の利益剰余金に課する項目

分類1 実際原価、標準原価、予定原価

実際原価(actual cost):実際の消費量をベースに計算される

実際消費量×実際消費価格
実際消費量×予定消費価格
過去原価、歴史的原価ともいわれる

標準原価(standard cost):科学的、統計的な方法を使ってあらかじめ設定された標準消費量を利用して計算される

標準消費量×標準消費価格
標準消費量×予定消費価格

予定原価(estimated cost):事前に見積もられた、あるいは計画された予定消費量を基礎に計算される

予定消費量×予定消費価格
未来原価ともいわれる

分類2 総原価、製造原価 集計範囲が異なる分類

総原価(total cost) = 製造原価 + 販売費及び一般管理費(営業費)
原価の集計範囲が異なる → 総原価と製造原価の違い

製造原価(manufacturing cost) = 製品を製造するのにかかった費用を指す。
製品を製造しただけで売ることができなければ企業は存続できない。
製品を売るためにも費用がかかる。 → この費用のことを“営業費”と呼ぶ。
「営業費」とは、原価計算上の呼び名であり、損益計算書では「販売費及び一般管理費」と記載されている。
「営業費」 = 「販売費及び一般管理費」

分類3 全部原価、部分原価

全部原価(full cost):製造原価のすべてを製品原価として集計する
部分原価(partial cost):製品原価の一部のみを製品原価として検討する

分類4 製品原価、期間原価

原価が収益とどのような関係にあるかという観点から原価を分類 → 財務会計の観点から原価は製品原価と期間原価に分類される

製品原価(product cost):一定単位の製品に集計された原価
期間原価(period cost):一定期間における発生額を、当期の収益に直接対応させて把握した原価

財務会計において(全部原価計算による損益計算書の場合)

製造原価のすべて = 製品原価
販売費および一般管理費 = 期間原価

企業の内部管理において(部分原価計算(直接原価計算)の場合)

製造原価の変動費部分 = 製品原価
製造原価の固定費部分+販売費および一般管理費 = 期間原価

分類5 形態別分類、機能別分類

形態別分類:財務会計における費用の発生を基礎とする考え方。材料費、労務費、経費に分類される。
機能別分類:原価が経営上いかなる機能を果たすことによって発生したかによる分類。

機能別分類
形態別分類
製造原価 総原価 材料費
販売および一般管理費
(営業費)
労務費
経費

分類6 直接費、間接費 製品と関連づけた分類

製品全体にかかった費用 = 製造間接費
個々の製品にかかった費用 = 製造直接費

材料費、労務費、経費の3つそれぞれが直接費(direct cost)と間接費(indirect cost)に分けられるが、原価計算上では、間接材料費、間接労務費、間接経費をまとめて「製造間接費」と呼ぶ。

材料費 = ほとんどが直接費で、残りが間接費
労務費 = ほとんどが直接費で、残りが間接費
経費 = ほとんどが間接費

分類7 変動費と固定費 操業度と関連づけた分類

仕事量で変化する費用 = 変動費(variable cost)
仕事量にかかわらず一定である費用 = 固定費(fixed cost)

材料費や外注費は生産が増えるほど増える。
地代、家賃、設備、減価償却費、固定資産税、保険料などは生産量に関係なく一定。

中間タイプ = 準変動費(あるいは準固定費)
現場責任者の給料:毎月に同額が支払われるので固定費になりそうであるが、仕事が非常に忙しくなって超過勤務手当が多くなれば給料が増える。

費用がこれら3種類のどれであるかを決める方法として、「勘定科目法」、「2期間比較法」、「スキャターグラフ法」、「最小自乗法」などがある。
その方法のどれを用いるかは業種や会社によってかわる。費用をこのように分類する目的は、損益分岐点作成や直接原価計算で必要とされるからである。 電気料:生産がまったくなくても基本料金は必要で、生産が増えるとそれにつれて増えていく費用。

通常の状態では、企業の操業度は一定の範囲内で動くものと考えられる。従って、準変動費あるいは準固定費は、

  • 一定範囲の操業度では固定費または変動費とみなして、そのいずれかに帰属させる方法
  • 固定費と変動費の合成されたものと考えて固定費部分と変動費部分に分解する方法

が採られている。

固定費について
固定費部分の原価全般に占める割合が飛躍的に大きくなり、企業にとってはこれを適切に管理することが重要な課題となっている。そのため、時には
固定費 = キャパシティ・コスト(経営能力費用、あるいは、経営準備費用)capacity cost
とも解釈される。
さらに、
固定費 = コミッテド・コスト(既定固定費) + マネジド・コスト(管理可能固定費)と分類される。
committed capacity cost + managed capacity cost

コミッテド・コスト(既定固定費):過去の意思決定に基づいて資本が投入され、短期的には原価の発生を阻止することが不可能な固定費。工場の建物、設備の減価償却費や維持費
マネジド・コスト(管理可能固定費):経営環境などの変化による変更から期間ごとにあるいは期間中にもその発生額を決定、変更しうる工程費。広告宣伝費や研究開発費。

分類8 管理可能費と管理不能費 原価の管理可能性からみた分類

管理可能費(controllable cost):当該管理者にとって管理できる原価
材料費、外注加工費:現場管理者にとって管理できる原価

管理不能費(uncontrollable cost):当該管理者にとって管理できない原価
設備の減価償却費、固定資産税:現場管理者にとってはその発生に影響を与えられない

分類9 部門個別費、部門共通費

各活動単位:製造諸部門、販売部門や販売地域、事業部など(セグメントという)に原価を直接帰属させられるか?

部門個別費(帰属可能費):セグメントに帰属可能なもの
部門共通費(帰属不能費):セグメントに帰属不可能なもの

伝統的な全部原価計算では、共通費は、一般に適当な配賦基準を設けて各セグメントに配賦される。

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