労務費(labor costs)とは、製造原価のうち「労働力の消費によって生じる原価」である。
労務費も材料費と同じように製品との関連による分類ならびに形態別分類を行う。すなわち、特定の製品の原価として直接認識できるものを直接労務費、認識できないものを間接労務費に分類する。労務費の支払い形態(どのような人に何を支払うか)による分類では次のようになる。
上記の労務費の中、賃金、給料、雑給および従業員賞与手当を労務主費、退職給付費用および福利費を労務副費という。なお、直接労務費は賃金の中で特定の製品に関わった作業時間に対して支払われた対価であり、それ以外の対価は全て間接労務費に区分する。
賃金(wage)については、その支払と消費を記録するためにさまざまな証票と帳簿が用いられる。証票に出勤簿、作業時間報告書、手待時間票、出来高報告書などがあり、帳簿も一般仕訳帳や総勘定元帳の他に消費賃金仕訳帳などが用いられている。
工員への支給額は、賃金支払高+諸手当(製造作業と直接関係ない手当)−源泉所得税−社会保険料(健康保険料、雇用保険料など)となる。賃金を支払った時、賃金勘定の借方に支払高を記入する。
(借方)賃金 ××× | | (貸方)現金 ××× (貸方)所得税預り金 ××× (貸方)健康保険料預り金 ××× |
賃金は工員ごとに支払われるので、支払高の計算も工員ごとに行う。賃金支払高は基本給(基本賃金)に加給金(製造作業に関連する手当で時間外手当など)を加算した金額になる。
賃金支払高 = 基本給 + 加給金
なお、基本給の仕組に時間給制と出来高給制がある。
基本給 = 支払賃率 × 実際就業時間
基本給 = 支払賃率 × 実際出来高
直接工と間接工では消費賃金の計算方法が異なる。
直接工の消費賃金は消費賃率に作業時間を乗じて求める。なお、消費賃率に多様なものがある。直接工一人ひとり個別に計算するか、平均を採るかによって個別賃率と平均賃率に分かれる。平均賃率は職種別平均賃率(職種ごとの平均を採る)と総平均賃率(工場全体での平均を採る)に分かれる。また、消費賃率に実際賃率と予定賃率がある。実際賃率は、原価計算期間(月初から月末まで)の実際の賃金支払高に基づき算出する。一方、予定賃率は、期首に当該会計期間の賃金支払高と同期間における就業予定時間の合計を見積もり、予定賃金支払高合計を予定就業時間数合計で除すことで予め算定する(図表5-2)。
図表5-2 消費賃率の分類
なお、実際個別賃率では工員ごとに異なる賃率が用いられるので、同じ製品に同じ作業時間を投入した場合でも製品原価が異なるという問題が発生する。また、直接労務費の計算を簡略化するために予定平均賃率を用いることがよく行われるが、この場合、予定と実績の差異である賃率差異が生ずることになる。
さて、直接工の勤務時間と実働時間の関係を示すと図表5-3のようになる。段取時間は加工作業を行うための準備に要する時間であり、手待時間(idle time)は機械の故障、材料の手配ミスなどの工員の責任外の原因による遊休時間である。
勤務時間 | ||||
就業時間 | 休息時間 | |||
実働時間 | 手待時間 | |||
直接作業時間 | 間接作業時間 | |||
加工時間 | 段取時間 |
賃金消費額は特定の製品に跡づけできる直接労務費と特定の製品に跡づけできない間接労務費に分類する。賃金を消費した場合の記帳では、賃金勘定から直接労務費(直接賃金)を仕掛品勘定(製造勘定)に、間接労務費(間接賃金)を製造間接費勘定に振り替える(図表5-4)。また、仕訳は次の通りであり、勘定連絡を図表5-4に示した。
(借方) | 仕掛金 ××× | (貸方)現金 ××× |
製造間接費 |
間接工の消費賃金については、原則として当該原価計算期間の負担に属する要支払額をもって計算する(原価計算基準12)。要支払額は、給与計算期間と原価計算期間のずれを修正したもので、次式で求められる。
間接工賃金の消費高(要支払額) = 当月支払高 - 前月未払高 + 当月未払高
一般に賃金の支払期間と原価計算期間が異なるため、賃金の消費高と支払高は一致しない。この関係を図表5-5のように表現できる。
8/21 | 9/1 | 9/30 | ||
← 前月末支払高 → | ← 前月末支払高 → |
8/21 | 賃金計算期間 | 9/20 | 9/30 | |
← 当月賃金支払高 → (未払賃金計算期間) |
← 当月未払高 → |
また、仕訳は次の通りであり、勘定連絡を図表5-6に示した。
図表5-6 間接工賃金消費の勘定連絡図
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