11-2 11-4
原価計算 小倉幸雄
第11章 直接原価計算

11-3  標準直接原価計算(現在、2級の出題範囲には含まれていない)

(1)標準直接原価計算の意義

標準直接原価計算(standard direct costing)は、標準原価計算と直接原価計算の結合したものであり、原価管理(cost management)および利益管理(profit management)に役立つ原価計算技法である。このような管理機能を効果的に発揮させるためには、予算管理制度などとの有機的な結合が重要である。

(2)標準直接原価計算の特徴

標準直接原価計算の特徴は、つぎのように要約される。

  • 売上高から控除される費用が変動費と固定費に区分され、原価、操業度、利益分析が可能となる。そのため,予算管理に有用な資料を提供できる。
  • 標準原価と結びついているので、その数値が原価能率の尺度とならないという直接原価計算の欠点が捕われる。
  • 変動費については、部門別、作業別に標準原価を設定し、変動費差異を把握できる。
  • 固定費については、部門別に予算を組み、固定費差異を分析することにより、管理可能費(controllable costs)と管理不能費(uncontrollable costs)に識別することがきるため、固定費管理に有用な資料を提供できる。

(3)標準直接原価計算の会計てつづき

標準直接原価計算は、予算管理制度と連動しながら、次の様なてつづきをふむ。

  • セグメント別のセールス・ミックス(sales mix)を決定する。
  • 標準原価の設定
    直接材料費、直接労務費、変動間接費について価格標準と物量標準を設定し、変動販売費については価格標準を調査設定し、製品単位あたりの標準変動原価を算定する。
  • 予算額の設定
    1、2により決定された標準価格に予定販売量を乗じて、売上高、売上変動製造原価、変動販売費について、各予算額を設定する。 固定費については、年間予算または月次予算にもとづいて決定する。
  • 実績の算定
    予算販売単価に実際販売量を乗じて実績標準売上高を製品別に算定し、また、原価標準に実際販売量を乗じて実績標準変動原価および実績標準変動販売費を製品別に算定する。
  • 実際原価の算定
    製品別に、販売量ないし消費量、価格を把握し、売上高、変動製造原価、変動販売費、固定費の実際額を算定する。
  • 原価差異の算定
    実際額と業績標準とを比較して、売上高差異、直接材料費差異、直接労務費差異、変動間接費差異をそれぞれ計算する。
  • 原価差異の分析と報告
    差異分析を行い、差異の原因を調査し、管理者に報告し、必要な是正措置をとる。また、原価差異について、会計上適切な処理を行う。

(4)標準直接原価計算の差異分析

標準直接原価計算を採用する場合にも、標準全部原価計算と同様に、あらかじめ原価標準を設定しておく必要がある。ただし、原価の範囲が異なる点に注意が必要である。

一般的に、標準全部原価計算では、製造原価(変動製造原価+固定製造原価)にたいして原価標準を設定し、販売費及び一般管理費には設定しない。

一方、標準直接原価計算では、変動費(変動製造原価+変動販売費)にたいして原価標準を設定し、固定費については、予算管理制度と連動させる。

標準直接原価計算において、差異は次のように分析される。

売上高差異=価格差異、数量差異
直接材料費差異=価格差異、消費量差異
直接労務費差異=賃率差異、作業時間差異
変動間接費差異=変動間接費消費差異、変動間接費能率差異
販売費および一般管理費差異=変動販売費差異、固定販売費および一般管理費差異差異
固定製造間接費差異=固定製造間接費差異、操業度差異

(5)標準直接原価計算による損益計算書

標準直接原価計算の様式で確定されたものはない。その一例を示してみると次のようである。

損益計算書
T 売上高   ×××
U 標準変動売上原価   ×××
  標準変動売上原価
標準変動製造マージン
  ×××
×××
V 標準変動販売費
標準貢献利益
  ×××
×××
W 変動原価差異
1.価格差異
2.数量差異
3.賃率差異
4.作業時間差異
5.変動間接費消費差異
6.変動間接費能率差異
7.変動販売費差異

×××
×××
×××
×××
×××
×××
×××
×××
X 固定費
1.固定定製造間接費配賦額
2.固定販売費および一般管理費予算額  

×××
×××
×××
Y 固定原価差額
1.製造間接費消費差異
2.操業度差異
3.固定販売費および一般管理費差異

×××
×××
×××  
×××
  営業利益   ×××

(6)固定費調整

標準直接原価計算から実際全部原価計算への修正計算をする場合、まず、固定費製造原価を調整し、その上で、標準原価差額を調整する方法と、標準原価差額を調整し、その上で、固定費製造原価を調整する方法とがある。

11-2 11-4
Copyright (C) 2005 Konan University All Rights Reserved.