投資決定(capital expenditure decision)とは、巨額の設備投資や研究開発投資など、経営の基本構造の変革をもたらす長期的な問題に関する意思決定である。したがって、投資決定の分析では、短期的な意思決定と違い、プロジェクトの全期間にわたり、投資による現金流出(キャッシュ・アウトフロー: cash outflows)とそれらが生み出す将来の現金流入(キャッシュ・インフロー: cash inflows)、あるいは収益と費用を見積もり、それらにもとづき採算計算を行う。
経営の基本構造を変える投資は長期にわたって効果が現れる。したがって、投資のための現金流出額と投資により回収される現金流入額については、時間差による貨幣の価値を評価しなければならない。なぜなら、時間の経過がお金の価値を変えるからである。毎年の現金流出入額の時間価値を考慮して割引計算する場合、各年度の現金流出入額は期間の割引率(資本コスト率)の複利でもって還元され、それぞれの現在価値が求められる。その際に計算の便宜をはかるため、複利現価係数表を使用する。毎年の現金流入額が一定である場合、年金現価係数表を使って総現金流入額の現在価値をもとめることができる。
投資案の正味現金流出入額(ネット・キャッシュ・フロー: net cash flows)の測定は現金の支出と収入にもとづいて行われる。したがって、会計上の発生主義による費用・収益から正味現金流出入額を導く場合、現金支出を伴わない費用の扱いに注意が必要である。毎期の税引後正味営業現金流出入額は、発生主義会計を前提にすると、図表のように求められる。
図表13-1 正味営業現金流出入額の算定
すでに当初の投資額として計上されている減価償却費は、現金支出を伴わない費用である。しかし、課税所得計算上、損金として扱われる減価償却費には、期間の現金支出である法人税を減らす効果があることに注意したい(tax shield, タックス・シィールド)。なお、つぎの関係式が成立する。
正味営業現金流出入額=(1−税率)×(収益−現金支出費用)+税率×減価償却費。
あるいは 正味営業現金流出入額=税引後営業利益+減価償却費。
投資案の評価法にかんする以下の説明は、投資の全額が初年度期首に実施され、投資実施後の各期間の現金流出入額のすべてが期末に発生するとの仮定にもとづくものである。
(1) 正味現在価値法(Net Present Value Method)
正味現在価値法とは、投資案の耐用年数における現金流入額を一定の割引率(資本コスト率または最低必要利益率とよぶ)で割引いて現金流入額の現在価値を計算し、そこから投資案の支出総額を差し引いて正味現在価値(NPV)を求め、それを投資の判断基準とする方法である。正味現在価値がプラスならば投資案は採用に値し、それがマイナスならば採用に値しないと判断する。
正味現在価値 = 現金流入額の現在価値合計−投資額
正味現在価値 > 0 投資案の採択
正味現在価値 < 0 投資案の棄却
(2) 内部利益率法(Internal Rate of Return Method)
内部利益率法では、投資案の耐用年数にわたって発生する現金流入額の現在価値合計と投資額を等しくする割引率(IRR)を内部利益率とし、それが必要利益率もしくは資本コスト率よりも大きければ投資案を採用する。なお、つぎの関係を満たす割引率が内部利益率である。
投資額=現金流入額の現在価値合計
(3) 回収期間法(Payback Method)
回収期間法では、各期間の現金流入額を累計しながら、投資額の全額を回収する期間を探る。回収期間とは次式を満たす最初の年度のことである。
初期投資額−毎期の現金流入額の累計 ≦ 0
この方法は、最短の回収期間を持つ投資案を採択する。
(4) 会計的利益率法(Accounting Rate of Return Method)
会計的利益率法とは、投資案の見積純利益の期間平均値を投資額の期間平均値でもって除した会計的利益率と必要利益率との比較によって、投資決定を行う方法である。平均純利益は減価償却費を控除した各期間の会計的利益額の平均値であり、また、平均投資額は減価償却累計額を控除した帳簿残高の平均値である。
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