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原価計算 上埜 進
第13章 戦略的原価計算

13-7  活動基準原価計算

活動基準原価計算(activity-based costing, ABC)は、間接費すなわちサポート・コスト(support costs)を、説得力の高いコスト・ドライバー(cost drivers,原価作用因)で活動や製品・サービスといった原価対象に配賦することで間接費計算の改善をはかり、より正確な製品原価数値を提供しようとするものである。出現の背景は、1970年代に普及したFA(factory automation)による生産プロセスの自動化がキャパシティ・コスト(capacity costs)を急速に高めたことや、消費者趣向の多様化が顧客満足に敏感な企業に範囲の経済を活かした多品種少量生産を浸透させ、製造原価の中での共通費のウエイトを高めたことなどがある。そうした原価計算環境下では、伝統的原価計算の製造間接費配賦の欠点が顕在化し、原価情報の意思決定関連性の喪失(relevant lost)が問題視された。

(1)伝統的原価計算による製造間接費の配賦

すでに学んた伝統的原価計算は、製造プロセスに投入した諸資源のコストである資源コスト(リソース・コスト,resource costs)をとらえる費目別計算(第1次計算段階)、部門を原価対象にコストを集計する部門別計算(第2次計算段階)、製品原価を算出する製品別計算(第3次計算段階)という3計算段階からなる。部門別計算は、通常、製品(仕掛品)に直課できずに製造間接費として集計される資源コストの部門への配賦計算からなり、図表13−1に示したように、第1次集計では、資源コストを費消した各製造部門および各補助部門に割り振る。費消した部門を特定できる部門個別費は直課し、部門共通費は合理的なコスト・ドライバーによって配賦する。第2次集計は、補助部門に集計した製造間接費合計額を直接配賦法、階梯式配賦法、相互配賦法等のいずれかの方法で製造部門に配賦することで、すべての製造間接費を製造部門に集める。こうした部門別計算は、発生場所(ないし機能)別に原価を集計することで管理に有用な資料の提供、ならびに、より正確な製品原価計算を可能にする。第3次計算段階では、直接作業時間、直接労務費、機械時間などの「操業度関連の原価配賦基準(volume-based cost allocation basis)」をコスト・ドライバーにして、製造部門に集めた製造間接費を当該製造部門を通過した各製品に割り振る。

(2)活動基準原価計算による製造間接費の配賦

活動(activities; 製造活動では段取り、機械加工、塗装、組立など)をコスト・プール(cost pool)に据える活動基準原価計算における製造間接費の計算構造は図表13−3の通りである。第1次計算段階では、発生原価を資源別にとらえて各資源コスト・プールの資源コスト(resource costs)を確定する。第2次計算段階では、活動コスト・プールが消費した多様な資源コストを集計して各活動コスト・プールの活動コスト(activity costs)を確定する。活動が消費する各資源のコストを資源エレメント(resource element)と呼び、それは資源ドライバー・レート(resource driver rates)に資源ドライバー消費量を乗じて求める。当然だが、資源ドライバー(resource drivers)には当該資源の消費特性を反映するものを選択する。第3次計算段階では、集計された各活動コスト・プールの活動コストを各製品に割り振る。手順は、インプットとアウトプットの因果関係を跡づける活動ドライバー(activity drivers, activity cost drivers)をすべての活動について定める。続いて、活動コスト・プールに集計されたコストを活動ドライバー総消費量でもって除し、活動ドライバー・レート (activity drivers rates)を求める。製品は、一般に複数の活動を消費しており、したがって、消費した活動ごとにコスト・ドライバー・レートにドライバー消費量を乗じて活動コストを求め、それらを合計して当該製品の製造間接費を確定する。製品の単位当たり製造間接費は、製品の製造間接費を完成品換算量で除して求める。  なお、活動基準原価計算の原価管理への応用に活動基準原価管理(activity-based management, ABM)が、予算管理への応用に活動基準予算管理(activity-based budgeting, ABB)がある。

図表13-3 製造間接費の配賦法

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