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原価計算 上埜 進
第13章 戦略的原価計算

13-8  原価維持、原価改善と原価企画

量産段階に入った後に展開する継続的な原価低減活動に原価維持と原価改善があり、量産段階に入る前、すなわち源流ないし上流で目標利益の確保を企画する原価管理活動に原価企画がある。。

(1)原価維持

原価維持は、既存の経営構造や生産諸条件を前提に、原価の価格要素と数量要素に設けた原価標準を量産段階で達成しようとする、製造現場における日常的な統制活動である。すなわち、既存製品の実際原価が標準原価ないし予算原価を超過しないように統制するものであり、伝統的な標準原価計算の技法を用いて発生場所別および責任者別に発生原価を管理する。このため、標準原価管理とも称される。

(2)原価改善

原価改善(cost improvement、kaizen costing、continuous improvement)は、製品や部品の製造原価を改善目標となる原価レベルにまで計画的に引き下げる継続的な活動である。同じく量産段階で展開される上述の原価維持が製品製造をめぐる諸条件に変化がないとの前提のもとに原価標準の達成に努めるのに対し、原価改善では製造方法の改善や投入資材の変更による原価削減をねらう。なお、原価改善は、既存製品の量産段階で日常的に行う期別・部門別原価改善と、初期流動性管理の一環として量産段階に突入した早い時期に新製品の原価目標の未達成部分を埋めてしまおうとする製品別(プロジェクト)原価改善に分かれる。

(3)原価企画

原価企画(target costing)は、新製品を市場に導入するに際して、商品構想、製品企画、開発・設計といった早いフェーズにおいて目標利益(目標利益=目標価格−許容原価)を確保してしまおうとする原価作り込み活動である。目標利益は中・長期的な全社利益目標から演繹的に導く。組立型量産品では製品原価の80-90%が製品仕様ならびに材料・部品の物的・機能的特性などを決める段階で確定(locked-in)してしまう。このため、量産段階に入ってからの原価削減余地が小さく、源流管理の一貫として実施される原価企画が大きな役割を果たす。なお、積み上げた見積原価と目標利益を保証する許容原価との隔たりを各職能部門の協働によって事前に埋めることで利益を確保することから、原価企画は利益企画とも称される。

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