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環境計測のための機器分析法 茶山健二
1章 環境計測のための機器分析法
1-5  機器分析の長所
 機器分析は旧来の化学分析と比較して、一般的に次のような長所を持っています。
(1)  選択性がよく、化学分析では得られない各種の知見が得られること
 前述のように、従来の化学分析は、一般に物質を分離して分析する方式ですから、分析目的成分相互間の分離、または非目的成分との分離が最大の問題であり、したがって、分離が不可能か困難な混合物、例えば有機混合物における異性体、無機混合物における同位体、希土類元素などの分析は不可能でした。これに対して機器分析においては、物質の有する性質を信号化し、その信号を分離することにより分析を行うので、物質分離をしなくてもこれらの分析が多く場合、可能です。また機器の利用により従来眼で判定していたのを測定領域を広げて紫外または赤外部での光を利用したり、同じ波長域でも分解能よく測定したりして、選択性のよい測定ができます。さらにガスクロマトグラフ法などのように各成分を分離して分析している場合では、例えば各成分の分配定数のきわめてわずかな差などにより装置的に選択性よく分離し、これを検出することができますので、従来の化学分析では得られなかった異性体の検出など各種の知見が得られます。最近では、機器分析により材料などの表面層や微小部分(局所)の分析、化学結合の状態など、存在状態の分析も可能になりました。
(2)  迅速であること
 (1)にも述べたように、化学分析では分離が問題ですから、分解、沈殿、ろ過、抽出、蒸発乾固、蒸留など種々の煩雑な操作が必要で、分析所要時間を長くしていましたが、機器分析では複雑な前処理をしないで、そのまま試料を測定できる場合が多く、また測定時間もなるべく短いように工夫してありますから、機器の準備さえできてしまえば、従来法に比し、非常に迅速に分析できます。例えば、鉄鋼の生産の際、転炉の溶鋼の迅速分析法 (炉前分析と呼ばれます) が研究され、直読式発光分光分析法により1試料 (5〜10成分) 2〜3分で処理されるようになりましたが、それまで各成分15分間以内にできればよいとされていたのに比べると格段に迅速化されたことは明らかです。迅速性はある意味で経済性につながります。すなわち、ある製鉄所では約40年前にこの装置2台 (当時1台約3000万円) を購入し、全面的にこの方法にきりかえましたが、転炉の操業時間を短縮でき、転炉1基当りの稼働率が大幅に増加し、品質の向上、省エネルギーにも寄与しました。 ところで、分析機器を使用する前に、あらかじめその分析目的または測定に適するように、試料に適当な物理的または化学的操作を加えることをいいます。分析妨害成分の分離除去をはじめ、測定に必要な化学系もしくは物理状態への変換、内標準物質、干渉抑制剤の添加など各種各様の方式があります。
(3)  操作が容易で個人差が少ないこと
 例えば(2)の例で、従来の炉前分析をする人は熟練するまで約5年の訓練期間を必要としていたといわれます。これに対し、機器分析の方は1ヶ月程度で充分です。現在分析機器の中には、使いこなすのにかなり大変なものもありますが、これはまだ発達段階にあるためで、将来の理想はいわゆるプッシュボタンアナリシス (push button analysis、分析者はボタンを押すだけで、あとは装置が全部してくれて、全く熟練を必要としないで結果が出てくる方式)になることです。これはいいかえれば個人差 (分析者のいわゆる”腕”による分析値のバラツキおよび正確度の差) をなくすということで、従来の化学分析の1つの欠点である個人差がなくなることは機器分析の1つの特長です。
(4)  分析感度がよく、試料量が少なくてすむこと
 例えば発光分析法によれば、数ppmの元素なら容易に定量でき、また最近問題化している大気汚染に関してはガスクロマトグラフ法やガスクロマトグラフ質量分析法によれば、空気中の有機汚染物質に対し濃縮操作なしでppb7)の桁まで定量された例がありますし、放射化分析や質量分析ではさらにそれ以下の元素や化合物の検出も可能です。機器分析法すべてが必ずしもそのように感度がよいとはいえませんが、一般に分析感度のすぐれているものが多く、また試料量が少量で足りる場合が多いと考えられます。
Key word ppm、ppbはparts per million, billionの略で100万分率、10億分率を表わします。現在ではppt (parts per trillion、1兆分率) の桁の成分でも検出可能な方法があります。
(5)  分析の自動化または連続化が可能になること
 生産工場においては機器分析の導入により迅速な品質管理分析が可能になりましたが、石油化学工業など連続生産方式の場合には、組成が連続的に変化するので、連続分析が必要となります。この際主要な分析機器は、プロセス分析用機器としても重要な役割を果たすこととなります。例えば、石油化学工業では、プロセスガスクロマトグラフ、赤外ガス分析計などが活躍しています。また臨床分析関係では、近年各種のオートアナライザーが市販されており、化学検査の自動化は大病院では普通のこととなっています。さらにこれらにコンピューターを導入することも試みられており、例えば石油プラントに最適化制御用のプロセスコンピューターが利用されており、また臨床検査においては、新鋭の自動検査システムと病院情報システムとの組み合わせ (これはホスピタルオートメーションと呼ばれている) で非常に便利に利用できるようになりつつあります。このように今後機器分析の自動化または連続化は、ますます多方面に応用されるようになるであろうし、またその際コンピューターの接続が一般的になることは確実です。
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