機器分析方法の設計
ある試料を機器分析法により分析しようとする際、考えるべき道筋をシステム工学的手法により整理すると、概略は表1・2のようになります。
まず目的を正確に把握し、次に目的を具体的に明確化します。これにより試料の形態、量から、求めている化学情報の内容、さらには関連する経済性、安全性まで的確につかむ必要があります。
この目的に従って、ある機器分析方法を計画すします9)がこれで充分か否かをこの段階でチェックします。もし不都合が起こればもう一度ねり直します。
よければ次にこの方法を具体的に立案します。ここでは何社製のどの装置を使用するかから、試料採取量、前処理法や試料濃度の調整の点まできめてゆきます。
これに基づき実際に思った通りにその機器分析でできるか否か、標準物質などを使って試験します。そこで再びその方法の評価を行い、予想通りに行けば、実際にその方法の運用、すなわち実用化試験を行います。いざ実地にやってみると思わぬ障害が起こることが往々ありますが、この際は運用設計を一部変更して再検討する必要もでてきます。このようにして得られたデータから運用の評価を行い、よければ最終判断を行い、次の行動へ移りますが、場合によっては一番最初へフィードバックし、分析法の変更または更新をすることもあり得えます。
このようにして、何か新しい問題が与えられたとき、まず目的を明確にし、それに適する新しい機器分析法を開発設計し、それに基づいて化学情報を有効に取り出すまでの一連の課程を分析設計といいます。また現在、すでに高度情報化社会、高齢化社会が身近に迫ってきていますので、この社会的要請に対応するため、近い将来、従来の分析化学の枠を超えた学際領域など関連領域の研究の進展が広く要請されることになると思われます。すなわち、従来の分析化学では、限られた範囲の対象に対する化学情報の取得に重点がおかれていましたが、今後は、従来の対象の範囲をいっそう拡大するとともに、化学情報の伝達、特性・機能評価から化学診断、化学予測、知能化まで含めた広い範囲をカバーすることが期待される時代になるでしょう。この守備範囲の拡大に関し最近、分析化学から分析科学へ、もしくは分析化学から計測科学への脱皮、新展開といういい方がされますが、同じことを指しており、今後の機器分析もこのような観点から論議される必要があります