まず、有機化合物、無機化合物いずれにも最適という方法は皆無であり、また有機化合物に最適という方法が2種類あっても、その特長的用途または不適当な対象を考慮すべき必要があります。例えば、赤外吸収スペクトル法もガスクロマトグラフ法も共に有機定量は最適ということになっていますが、赤外法は各種官能基の定量分析、芳香族異性体混合物の定量分析、高分子物質の定量分析を得意としており、多成分混合物とか微量不純物の定量に対しては適用困難です。ところが、ガスクロマトグラフ法では多成分混合試料の定量分析微量不純物の検出などは得意とするものの1つであり、逆に高分子物質など高沸点試料の測定を行うことは困難です。
このように各機器分析法はどの1つをとっても万能のものはなく、すべてどこかに長所と短所があり、機器分析を最も効率よく利用するという立場から考えた場合、何か問題が与えられたとき、まず図1・1のようにこの問題には、いかなる分析法を応用したら最も簡単に解決し得るか、またはどれとどれを併用するのが解決への最短距離であるかをみきわめてから、実験にとりかかるべきであり、この方向が誤ってさえいなければ、この問題はすでに相当程度片づいたといっても過言ではないでしょう。
したがって、いずれかの機器分析法を担当または依頼しようとする立場の人々は、各機器分析法の長所短所をよく理解して、最も有効に各方法を利用すること、さらに不適切な方法によるデータにまどわされないようにすることが必要です。
図1・1 機器分析の概略流れ図