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環境計測のための機器分析法 茶山健二
2章 吸光光度法 色で分析する
2-4  スペクトルとは?
光の吸収
 光は光子(photon)と呼ばれるエネルギー粒子の流れであり、その各々は特定のエネルギーをもち、光の振動数とは:プランクの定数)の関係があります。いいかえれば、ある振動数(または波長)の光は、一定のエネルギーをもった光子の流れです。光が物質に当たると、吸収、散乱、反射などの相互作用を生じますが、いま吸収について考えると、吸収は入射光がそのエネルギーを原子、分子、イオンなどの化学種に与えて、それらのもつエネルギー量を増加させることになります。この場合、化学種のエネルギーは不連続すなわち量子化(quantization)されていて、ある許容された状態しかとり得ないので、光を吸収してより高いエネルギー状態に遷移(transition)するためには、Bohrの条件、
  (2・1)
 を満たすような波長の光だけを吸収します。(図2・2)
図2・2 吸光光度分析の原理
 ここで、は光を吸収する前後の化学種のもつエネルギーです。のとり得る値は様々ですが、それぞれの化学種について一定の外的条件では一定ですから、ある物質に白色光が入射したときに現れる吸収曲線、すなわち吸収スペクトルは物質ごとに一定であり、この事実が吸収スペクトルを定性分析に利用できる基礎になっています。
 つまり溶液に光の粒子の混合である白色光を照射すると、溶けている科学種によって特有の光の粒子だけが吸収され、その残りの粒子が溶液を通過します。これをプリズムまたは回折格子で分けてみるとスペクトルに一部欠けた所が見られます。これから吸収曲線を画くことができます。吸収されずに透過してきた光の粒子を混合したものが溶液の色として見ているものと同じです。(図2・3)
図2・3 基底状態・励起状態
分子スペクトル
 分子のもっている内部エネルギーには、回転エネルギー(rotational energy)、振動エネルギー(vibrational energy)、電子エネルギー(electronic energy)の3種類があります。すなわち、
  (2・2)
です。は重心を通る軸のまわりの回転、は分子内の原子の振動に基づき、は分子軌道に分布する電子の状態に関係します。分子による光の吸収は、これらのうちいずれか1種類以上のエネルギー状態を変化させるときに起こり、その吸収スペクトルは分子スペクトルと呼ばれ、どの変化に基づくかで、回転スペクトル、振動スペクトル、電子スペクトルに分けられます。
 回転遷移に要するエネルギーは比較的小さく、低い振動数すなわち長波長の光の照射によって生じます。その吸収スペクトルは回転エネルギー単独の変化に起因するもので、遠赤外からマイクロ波領域に現れます。振動の遷移エネルギーはこれより大きく、その吸収スペクトルは大体赤外領域に現れます。また電子スペクトルはさらに大きな遷移エネルギーをもち可視、赤外領域に現れます。一般に、小さい分子の気相の電子スペクトルは回転や振動スペクトルを伴うために微細構造をもちますが、液相とくに極性溶媒中の溶質分子や会合している分子では吸収帯(吸収バンド)の幅は広くなり、微細構造は現れません。
電子スペクトル
図2・4 エネルギー準位と遷移の過程
 分子が紫外または可視の光を吸収する過程は(図2・5)のa,bで示したようになり、基底状態(ground state)の最低振動準位から励起状態(excited state)の種々の振動準位へと分子軌道電子の遷移が起こります。励起のエネルギー状態は、電子対のスピンが逆平行か平行かによって一重項(singlet)か三重項(triplet)として表されます。遷移のさいの分子のエネルギー変化は、式(2・1)により計算すると、160〜600kJ(約40〜140kcal/mol)程度です。また、光の吸収は全波長範囲にわたって均一ではなく、分子の種々な電子エネルギー状態に対応した極大を示し、いわゆる吸収スペクトル(電子スペクトル)を与えます。その波長はの大きさにより、強度は電子遷移の確率などによって定まります。過マンガン酸カリウム溶液の吸収スペクトルはこのようになります。(図2・5)
図2・5 マンガン酸カリウムの吸収曲線
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