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環境計測のための機器分析法 茶山健二
2章 吸光光度法 色で分析する
2-8  モル吸光係数とは
 式(2・7)におけるモル吸光係数は呈色化学種の種類、波長、温度などによって定まる定数で、呈色化学種の面積吸収係数(ディメンション)です。が大きいほど呈色は強く(鋭敏に)なり、定量の感度は増加します。
 いま、の大きさについて考えると、は呈色化学種の大きさ、正しくいえば光吸収に有効な断面積と、電子遷移の確率に支配されると考えられるので、
  (2・8)
となります。ここで、は比例定数で、9×103という値をもち、したがってのとり得る最大値は、式(2・8)でとすれば、約105となります。  実際に見出されている高感度発色試薬には、ビスアゾクロモトロープ酸誘導体(アルセナゾIII、カルボキシニトラゾなど)、ピリジルアゾ化合物(PARなど)、トリフェニルメタン誘導体(クロムアズロールSなど、第4級アンモニウム塩の共存下)、塩基性色素カチオン(メチレンブルーなど、イオン対を生成)などがあり、いずれもある種の金属イオンと10〜20万台のをもつ錯体を生成します。(図2・8)また、ポルフィリン化合物はが20〜50万台に達する錯体を生成し(図2・8)、最近多くの実用例が研究されています。この化合物ではが約といわれています。

 式(2・8)からわかるように、を大きくするためにはがともに大きい方が効果的です。表2・5にはジピリジルおよびフェナントロリン誘導体の鉄(II)錯体について、配位子の構造と錯体の値とを示したが、分子の大きさ(と考えてよい)が増すほどが大きくなる様子が定性的に理解できます。(図2・8)
図2・8 高感度発色試薬の例
 次にについてごく簡単に触れると、一般に許容遷移(allowed transition)のときにはは大きく(およそ0.1〜1、も1000以上)、禁制遷移(forbidden transition)のときには、は小さくなります(およそ0.01以下、は大体1000以下)。
 金属錯体が電子スペクトルを生じるさいの遷移には、 a)は多くの遷移金属イオン自身の呈色の原因となるもので禁制遷移であり、は0.01以下、は0.1〜100程度です。ただしの化合物中にはが200〜1200のものもあります。b)は共役二重結合をもつ多くの有機発色試薬にみられるもので、遷移に基づく許容遷移でありは非常に大きくなります。また、,,のような原子団は遷移を示し、禁制遷移では比較的小さいです。なお、,などの呈色も遷移によりますがは1000以上です。c)は許容遷移でが104にも達するものがあります。チオシアナト鉄(III)錯体、1,10-フェナントロリン鉄(II)錯体および銅(I)錯体などはこの例で、前者ではからへ電子が移動して基とを生成し、後者では金属の電子が配位子の軌道へ移動します。
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