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環境計測のための機器分析法 茶山健二
3章 蛍光分析 物質を光らせる
3-2  蛍光分析法の基礎
 蛍光分析は,古くから紫外線ランプをあてて目で見ることにより,蛍光性をもつ極微量物質の検出に用いられてきました。吸光光度分析と同様に光電的に蛍光強度が測定できるようになり,蛍光試薬の研究とともに発展してきました。
蛍光放射と蛍光スペクトル
 蛍光の放射過程は2章の図2・1に示したようになります。光の吸収によって、励起状態の種々の振動準位に10-15秒程度で遷移(図2・1,a or b)した分子軌道電子は,無放射遷移により,励起状態の最低振動準位に10-13〜10-11秒で戻り,さらに基底状態まで戻ります(図2・1,破線)。しかし芳香族化合物などでは一部はの最低振動準位から光の放射を伴っての種々の振動準位へと10-8秒程度で遷移します(図2・1,c)。
 これが蛍光(fluorescence)で,一般に吸収された光よりも低エネルギー(長波長)です。
図3・1 アントラセンの吸収および蛍光スペクトル
(縦軸のスケールは任意)
 図3・1のアントラセンの吸収(a,b)および蛍光スペクトル(c)はそれぞれ図2・1の同記号の遷移に基づきます。多くの化合物でこのように吸収と蛍光のスペクトルは互いに鏡像対称(mirror image symmetry)に近い形になります。なお,励起分子がから10-8〜10-7秒程で三重項状態へ遷移(図2・1,d)した場合は、さらにへ光の放射を伴って遷移することがあります(図2・1,e)。これをりん光(phosphorescence)といい、禁制遷移で10-4〜10秒またはそれ以上の寿命があります。
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