蛍光放射と蛍光スペクトル
蛍光の放射過程は2章の図2・1に示したようになります。光の吸収によって、励起状態
の種々の振動準位に10-15秒程度で遷移(図2・1,a or b)した分子軌道電子は,無放射遷移により,励起状態
の最低振動準位に10-13〜10-11秒で戻り,さらに基底状態
まで戻ります(図2・1,破線)。しかし芳香族化合物などでは一部は
の最低振動準位から光の放射を伴って
の種々の振動準位へと10-8秒程度で遷移します(図2・1,c)。
これが蛍光(fluorescence)で,一般に吸収された光よりも低エネルギー(長波長)です。
図3・1 アントラセンの吸収および蛍光スペクトル
(縦軸のスケールは任意)
図3・1のアントラセンの吸収(a,b)および蛍光スペクトル(c)はそれぞれ図2・1の同記号の遷移に基づきます。多くの化合物でこのように吸収と蛍光のスペクトルは互いに鏡像対称(mirror image symmetry)に近い形になります。なお,励起分子が
から10-8〜10-7秒程で三重項状態
へ遷移(図2・1,d)した場合は、さらに
へ光の放射を伴って遷移することがあります(図2・1,e)。これをりん光(phosphorescence)といい、禁制遷移で10-4〜10秒またはそれ以上の寿命があります。