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環境計測のための機器分析法 茶山健二
4章 原子吸光分析法 ヒントは太陽にあった
4-8  バックグラウンド補正
 原子吸光では、試料中の塩濃度が高い場合やフレーム温度が低い場合には、塩の微粒子による散乱やフレーム中の分子種による吸収現象を生じます。例えば、海水試料をそのまま測定すると、カドミウムやニッケルなどの多くの元素でバックグラウンドのため見かけ上吸収が大きくなります。(図4・6)このバックグラウンド補正を行う方法に、主に、連続スペクトル光源方式、非共鳴近接線方式及びゼーマン方式などがあります。
図4・6 分子吸光バンドに重なる元素の分析線波長
連続スペクトル光源方式
 重水素ランプの200〜350nmの連続光を用います。連続光源では、目的元素による光吸収は事実上無視でき、バックグラウンド吸収のみと近似的に考えられるので、中空陰極ランプ光源による吸収との差を取ることによって補正できるのです。
図4・7 連続スペクトル光源方式
非共鳴近接線方式
 中空陰極ランプから発する共鳴発光線と、これと波長の近接する非共鳴近接線の両波長で測定を行い、両者の差を求めます。Niの場合1個の中空陰極ランプを用い、232.0nmの共鳴線とバックグラウンド測定用の231.6nmの非共鳴線を使います。
図4・8 非共鳴線近接線方式
ゼーマン方式
 光源からの光を偏光子を経て、磁場をかけた原子蒸気層に通すと、原子線はゼーマン効果により波長変化のないπ成分と、分裂してわずかに波長変化したσ±成分に分かれます。磁場に平行な偏光(P//)では測定元素のπ成分とバックグラウンドとの両方の吸収が測定できますが、磁場に垂直な成分(P┴)ではバックグラウンドだけの吸収を測ることになり、両者の差を求める事によりバックグラウンドを補正することが出来ます。磁場を光源部に置くこともあります。
図4・9 偏光ゼーマン方式
化学干渉
 イオン化干渉は、高温フレームやイオン化エネルギーの低い元素の場合に起こりやすく、イオン化により感度が低下します。これを防ぐには低温フレームを用いたり、よりイオン化しやすい元素を多量に共存させて抑制することができます。たとえばカルシウムやストロンチウムの定量の場合、カリウムの添加が効果的です。また、フレーム中で燃焼生成物と測定元素の間の化合物生成や、共存成分と測定元素との間に難解離性化合物が生成する場合には、遊離原子の割合が減少します。後者の場合には、妨害となる共存成分を分離することが最も良い方法ですが、妨害成分をさらに加えて影響を一定にしたり、標準添加法によって、定量する事が行われています。また、マグネシウム定量の際のアルミニウムやケイ素の妨害にはストロンチウムの添加、カルシウム定量の際のリン酸イオンの妨害には、ストロンチウム、ランタン、EDTAの添加などが効果的です。フッ素イオンはジルコニウム、チタン、タンタルなどの測定に増感効果を示します。
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