プラズマ発光光源の種類とその性質については、後章に詳述されるので、簡単に語源と分類について記します。プラズマという言葉の語源は、ラテン語のplasmaまたはギリシア語のπλαγμαにあり、意味するところは、「形造られたもの」(something formedまたはmoulded)です。近代科学において、この言葉が用いられだしたのは、19世紀の後半であり、医学または生物学においてでした。すなわち、血漿(blood plasma)または原形質(protoplasma)がそれです。いずれも物質的には、どろどろとしたコロイド溶液であって、むしろ形はないのですから、語源との関連をつけるのに苦しみますが、そのいずれも生命にとって重要な基本的なもの、したがって神秘的なもの、造物主によってのみ「形造られたもの」という意味に由来するという考え方があります。
一方、理学においてプラズマという言葉が用いられだしたのは、さらに新しく、1920年代になって、アメリカの物理化学者Langmuirが称えだしたものです。一口でいえば、電離気体(ionized gas)のことであり、真空放電管の中央発光部分の電離したガス、アーク放電の電極間の気体、大気の電離層、太陽のコロナなどが、その例です。Langmuirが、何故にこれらの電離気体にプラズマという呼び方を与えたのか、現在筆者の手元に残念ながら文献がないのですが、各種の小粒子を含んだ流動的かつ神秘的メディアムという点で、前記の原形質などとの共通点が見いだせます。
ともあれ、用語の常として、この物理学的な狭義のプラズマも、その後さらに細分化されて使用されてきています。正、負の電荷が、ほぼ等量存在して、全体として中性になっていると考えれば、プラズマは固態、液態、気態いずれの状態でもあり得るというのがその一つ、ただし気態に適用するのが普通で、電子、イオンのほか中性の原子や分子の集まったズープ状混合気体、すなわち弱電離プラズマがその二つ、温度が数万度以上となって、分子はもとより存在せず、原子も完全に電離して、電子と原子核の集合となった完全電離プラズマがその三つです。固、液、気に次ぐ物質の"第4状態"といわれるのは、この最後のプラズマであり、近年の天体物理学においてますます興味を呼んでいる太陽を含んだ高温の恒星、またそれを我々が作りだして、理想的なエネルギー源にしようとしている核融合炉の内部などは、この状態のプラズマです。発光分光分析用のプラズマ光源は、次のように分類することができます。
- 直流プラズマ
- 誘導プラズマ
- 高周波誘導結合プラズマ
- 容量結合マイクロ波プラズマ
- マイクロ波誘導プラズマ
このうち2の高周波誘導結合プラズマがこの章の主題です。