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環境計測のための機器分析法 茶山健二
5章 ICP発光分析法 プラズマに試料を送り込む
5-3  発光分光分析の原理
 ICP発光分光分析は、光源がICP(誘導結合プラズマ)というだけで、その原理はフレーム、アークあるいはスパークを光源とする発光分光分析と特に異なっているわけではありません。鉄鋼をはじめとする金属工業の生産管理分析では、固体試料を直接発光させて分析することのできるスパーク放電発光分光分析による多元素同時定量が依然として重要な方法として使われています。ただこの場合には、標準試料も分析試料と同様な形状をしたものが必要であるため、その入手がいつでも可能というわけではありません。標準試料の調整が容易な溶液試料の発光分光分析が強く望まれていたのはこのためです。
 プラズマが熱平衡、つまりプラズマを構成する各種の粒子が十分にエネルギーの交換をして平衡状態にあるとき、あるスペクトル線の強度は一般に次の式で表わすことができます。
  (5・1)
 ここでは目的元素の単位体積中の原子数、は励起準位の統計的重価、は分配関数、は遷移確率、はブランクの定数、はスペクトル線の振動数(光速/波長)、は励起準位のエネルギー、はポルツマン定数、はプラズマの絶対温度です。この式から、スペクトル線強度は温度とともに指数関数的に大きくなると考えられます。しかし、実際には、式(l)では中性原子線に対しては中性原子の数、イオン線に対しては該当する価数のイオンの数を表しますが、例えば中性原子について考えると、プラズマの温度がある程度まで上がると原子はイオン化し始めるので、全原子数は一定でも中性原子数は減少することになります。その結果、ある温度まではスペクトル線強度は温度とともに大きくなりますが、それより高い温度では逆に小さくなります。カルシウムおよびチタンを例として、その酸化物、中性原子、1価イオン、および2価イオンの割合が温度とともに変化する様子の計算結果を図5・1に示します。
図5・1 温度による分子および原子種の割合の変化
 プラズマにおける原子のイオン化の割合、つまり電離度はサハの式(2)で表すことができます。
  (5・2)
ここで、はそれぞれイオン、電子および中性原子の数密度、はイオンの分配関数、はイオン化電圧(eV)です。この式から、原子のイオン化はプラズマの温度と原子のイオン化電圧によって変わりますが、プラズマの電子密度も重要なパラメーターであることが分かります。ICPは完全な熱平衡プラズマではなく、電子温度はガス温度より1000〜2000Kも高いという報告もあります。その電子密度は中心部で1014〜1015cm-3です。ICPではイオン化電圧が8eV以下の元素は90%以上電離していることが推定されており、一般に中性原子線よりもイオン線のほうが強度が大きいのです。
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