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環境計測のための機器分析法 茶山健二
5章 ICP発光分析法 プラズマに試料を送り込む
5-5  ICP(誘導結合プラズマ)について
ICPの点火とガス流量
 トーチにフルゴンガスを流し、誘導コイルに高周波電力を加えても、実際には見かけ上何の変化も起こりません。これはアルゴンガスは絶縁体なので誘導される電流は極めてわずかで、放電にまでは至らないからです。そこでテスラ−コイルの放電をつけてト−チ内部に電子の種を作ってやる必要があります。そうするとこの電子が高周波の電場で加速されてアルゴン原子に衝突し、これをイオン化します。このとき新たに電子が生まれ、これがまた次のアルゴン原子のイオン化のために働きます。このようにして、次々とイオン化が進んでついに放電にまで到達するのです。
 放電の点火の際には、高周波電源側から見ると誘導コイルの内側には大きなインピーダンスの変化が起こっています。すなわち、放電の点火前には誘導電流がほとんど流れない状態ですから、誘導コイルは数100オーム以上の高いインピーダンスを示します。ところが放電がついてプラズマが生成すると、これは良導体なので大きな誘導電流が流れ、コイルのインピーダンスは急激に低下することになります。通常、高周波電源の出力インピーダンスは50オームになるように設計されているので、その出力を効率よくプラズマに供給するためには、電源側からみたインピーダンスも50オームになるような回路にする必要があります。このような調整を行う回路のことを整合回路、またはマッチング回路といいます。
図5・3 ICP用のマッチング回路
 ICP用のマッチング回路には普通図5・3のようなものが用いられています。図のように2個の可変コンデンサーが使われていて、C1は普通の空気バリコンですが、C2には真空バリコンが利用されています。C1は半固定で通常はほとんど調整の必要がありませんが、点火の前後の大きなプラズマインピーダンスの変化には、C2を変化させてマッチングの調整を行います。従来はこの調整を手動で行っていましたが、最近の市販装置ではほとんどサーボ機構によりC2を電動で変化させて高周波電力の反射波が最低になるように自動的に調整されるようになっています。このため、プラズマの点火は単にスタートボタンを押すだけでよいようになりました。
 トーチに流すガス流量は、外側ガスが毎分10〜18 L、中間ガスが0〜1 L、キャリアーガスが約1 Lです。
ICPの温度分布
 キャリアーガスを流すとプラズマの中心にドーナツ状の穴があきます。このように中心に穴があくということがこのプラズマの多くの優れた性質を生み出す原因になっています。このように簡単に穴があくのは、高周波電流の表皮効果によるものです。つまり、高周波電流は導体の中心部にはほとんど流れず、大部分が表面に近い部分だけを流れるという性質です。ICPの場合、高周波誘導電流はプラズマの中心部にはほとんど流れずトーチの外側管に近い周辺部のみに流れています。従って、キャリアーガスを細い管の先から吹き出してプラズマの中心部に吹き付けると、誘導電流にはほとんど影響なしにその部分が冷却され、結果としてドーナツ状の穴があくものと思われます。他の直流プラズマなどでこのような穴をあけることはほとんど不可能です。
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