ICPの点火とガス流量
トーチにフルゴンガスを流し、誘導コイルに高周波電力を加えても、実際には見かけ上何の変化も起こりません。これはアルゴンガスは絶縁体なので誘導される電流は極めてわずかで、放電にまでは至らないからです。そこでテスラ−コイルの放電をつけてト−チ内部に電子の種を作ってやる必要があります。そうするとこの電子が高周波の電場で加速されてアルゴン原子に衝突し、これをイオン化します。このとき新たに電子が生まれ、これがまた次のアルゴン原子のイオン化のために働きます。このようにして、次々とイオン化が進んでついに放電にまで到達するのです。
放電の点火の際には、高周波電源側から見ると誘導コイルの内側には大きなインピーダンスの変化が起こっています。すなわち、放電の点火前には誘導電流がほとんど流れない状態ですから、誘導コイルは数100オーム以上の高いインピーダンスを示します。ところが放電がついてプラズマが生成すると、これは良導体なので大きな誘導電流が流れ、コイルのインピーダンスは急激に低下することになります。通常、高周波電源の出力インピーダンスは50オームになるように設計されているので、その出力を効率よくプラズマに供給するためには、電源側からみたインピーダンスも50オームになるような回路にする必要があります。このような調整を行う回路のことを整合回路、またはマッチング回路といいます。
図5・3 ICP用のマッチング回路
ICP用のマッチング回路には普通図5・3のようなものが用いられています。図のように2個の可変コンデンサーが使われていて、C1は普通の空気バリコンですが、C2には真空バリコンが利用されています。C1は半固定で通常はほとんど調整の必要がありませんが、点火の前後の大きなプラズマインピーダンスの変化には、C2を変化させてマッチングの調整を行います。従来はこの調整を手動で行っていましたが、最近の市販装置ではほとんどサーボ機構によりC2を電動で変化させて高周波電力の反射波が最低になるように自動的に調整されるようになっています。このため、プラズマの点火は単にスタートボタンを押すだけでよいようになりました。
トーチに流すガス流量は、外側ガスが毎分10〜18 L、中間ガスが0〜1 L、キャリアーガスが約1 Lです。