スペクトル線強度分布は、スペクトル線の励起エネルギーや高周波電力によって変わりますが、キャリアーガス流量によっても変化します。ICP発光分光分析では通常、コイルから15〜20mmの高さの位置のスペクトルを測定しますが、(図5・4).のようにプラズマの操作条件によってその強度分布が変化するので装置毎に予め最適条件を調べておくことが必要です。
図5・4 高周波電力を変えたときの鉄のスペクトル分布とプラズマの温度分布
ICPでは一般に共有元素によるイオン化干渉や化学干渉が小さいことが特長です。イオン化干渉とは、共存元素、特にイオン化電圧の低いアルカリ元素が試料に多重含まれていると、その元素のイオン化によって電子密度が変化し、目的元素のイオン化平衡が変わってスペクトル線強度が変化することであり、化学干渉とは、目的元素と共有元素との強い化学結合によってプラズマ中でのその解離が少なくなってスペクトル線強度が低下することを意味します。
図5・5はカルシウムの中性原子線とイオン線の強度に及ぼすリチウムの影響を示します。比較的低い位置ではどちらの線に対しても大きな強調効果がありますが、15〜20mmの位置ではその影響が最小になっています。つまりICPではイオン化干渉が全くないということではなく、15〜20mmの位置で測定すれはアルカリ金属の影響は極めて小さいということになります。この位置は多くの線の強度が最も高い領域でもあるため、Normal analytical zoneとも呼はれています。この位置を外れて、例えばコイルに近いもっと低い位置で測定すると、カルシウムに対するりん酸の影響など化学干渉が現れることもあります。
図5・5 カルシウムの中性原子線(a)およびイオン線(b)の強度分布におよぼすリチウムの影響