CZEの分離機構はイオンの電気泳動速度の差に基づきます。イオンの泳動速度は,電気浸透流の場合と同様にイオンの移動度と電場の強さの積として表されます。
(6・5)
ここで
は電気泳動移動度です。すべてのイオンは電気浸透流の存在下で泳動するので,電気浸透流速度を
,試料イオンの電気泳動速度を
とすると電場の強さ
の下でのイオンのみかけの電気泳動速度
は次式で表されます。
(6・6)
イオンの電気泳動移動度をエレクトロフェログラムから見積もるためには,電気浸透流移動度も同時に記録しなければなりません。また試料イオンが陽イオン,陰イオンのいずれかの状態で泳動しているかを判断するためにも,電気浸透流速度をモニターすることは非常に重要です。電気浸透流速度は,アセトンやメタノールなどの電気的に中性な分子をマーカーとして用いて測定するのが一般的です。
CZEにおけるバンドの広がりの原因が泳動軸上のイオンの拡散であると仮定すると,理論段数,
は次式で与えられます。
(6・7)
はイオンの拡散係数であり,
は試料注入口から検出器までの長さです。式(6・7)は,
がキャピラリーの径には依存せず,印加電圧が大きくなるほど高くなることを示しています。このとき,二成分の分離能 は次式で与えられます。
(6・8)
ここで
は分離される二つのイオンの相対的な泳動速度の差です。
,
はそれぞれのイオンの移動度であり,
はその平均移動度です。この式を整理すると次式が得られます。
(6・9)
式(6・9)において
のとき,分解能は無限大となりますが,これは二成分が互いに逆向きに泳動することを意味します。式(6・9)から,試料イオン間の分離能の改善は,(1)印加電圧を大きくする,(2)イオンの移動度差を大きくする,(2)平均移動度と電気浸透流移動度の和を小さくすることによって達成できることがわかります。