6-4 6-6
環境計測のための機器分析法 茶山健二
6章 キャピラリー電気泳動法
6-5  試料注入法
 CEでは試料の注入量は数nl程度であり,このような極微量試料を精度よく注入することは非常に困難です。もっとも一般的に利用される注入法は,落差法と呼ばれる重力による試料注入法,ならびに界面動電現象である電気泳動や電気浸透流を利用する電気泳動法です。CZEやMEKCのように分離媒体が自由溶液の場合にはいずれの注入法も活用できますが,CGEでは試料の注入は電気泳動法に限られます。この他にも市販の装置では加圧法や吸引法を用いるものもありますが,ここでは落差法と電気泳動法について述べます。
(1)  落差法
 落差法はキャピラリー先端を試料溶液に浸し,試料溶液の液面をキャピラリーのもう一端が浸されているリザーバーの液面より高くすることにより注入する方法です。落差法によって注入される試料量は次式で表されます。
  (6・20)
 ここでは試料溶液の密度,は重力加速度であり,は試料溶液の粘度,はキャピラリー内部の半径,はキャピラリーの全長です。条件が一定であれば,試料溶液と検出側の泳動溶液の液面の高さの差と注入時間を一定に保つことで精度のよい注入が可能です。手動での落差法では精度のよい注入は困難であり,定量分析においては内標準物質が必要となりますが,現在の市販の装置においては液面の高さや注入時間がコンピューターにより制御されており,精度のよい注入が可能です。
(2)  電気泳動法
電気泳動法はリザーバーの一端を試料溶液に浸し,電圧を印加し,試料を注入する方法です。この方法は落差法に比べ,再現性に優れた注入が可能ですが,試料の電気泳動移動度の違いにより,注入された試料は本来の試料組成とは異なるという欠点を有しています。電気的注入法による試料の注入量は次式で表されます。
  (6・21)
 ここでは試料注入時の印加電圧であり,は試料の濃度です。試料の注入量はそれ自身のみかけの電気泳動移動度に比例するため,移動度の大きな試料イオンは移動度の小さな試料イオンよりも多量に注入されることになります。
6-4 6-6