7-2 7-4
環境計測のための機器分析法 茶山健二
7章 クロマトグラフィー 流れで分離する
7-3  クロマトグラフィーの基礎
試料成分の移動
 いずれのクロマトグラフ系においても、試料成分は固定相と移動相への分配を繰り返しながら、固定相中に分配されている間は移動せず、移動相中に分配されている間は移動相と同じ速度で移動します。試料成分は分配係数(partitioncoefficient)に応じて両相に分配されます。をそれぞれ固定相中、移動相中の成分濃度とするとは次の式で表わされます。
固定相と移動相の体積がそれぞれのカラムを考えると、分配平衡に達したとき、両相に分配される試料成分量の比
となり、を容量比(capacity factor)あるいは分配比(partition ratio)といいます。すなわち、試料成分全量のうちが移動相中にあり、移動相と同じ速度で移動するから、その成分全体はの速度でカラム内を移動することになります。したがって、試料成分が長さのカラムを通過するのに要する時間(保持時間(retention time))
で表わされます。は移動相(固定相に保持されない成分)がカラムー端から他端まで移動するのに要する時間で、は固定相に保持された正味の時間を示します。
このを調整保持時間(adjusted retention time)といいます。
また、は上式のように表わされるので、クロマトグラフ(装置)の条件を一定にすると、は一定であり、によってのみ変化することになります。したがって、が異なる成分はが異なり、カラムを通過する間に分離されます。
図7・1 クロマトグラム
試料成分の移動
試料中の成分を分離するには、カラム中で各成分帯が広がらず、重なり合わないことが必要です。図7・2(a)では二成分のピークは完全に分離しています。図7・2(b)では二成分のピーク頂点の間隔は図7・2(a)の場合と同じですが、成分帯が広がって重なり合った結果、ピークは幅が広くて分離不完全です。
図7・2 二成分の分離例
このように、カラムを溶出してくる成分帯の広がりの大きさによってカラムの分離効率(性能)を判定することができます。そのようなカラム性能を表わす尺度の一つとして理論段数(number of theoretical plates)があります。
ここに、はべ一スラインでのピーク幅、はピーク高さの半分の高さでのピーク幅で半値幅といいます。の大きなカラムほど、同じ保持時間のピーク幅は狭くなり、カラム性能が高いことを意味しています。
図7・3 理論段数(N) の評価
また、カラム長さで割った一理論段のカラム軸方向の長さを理論段高さ(height equivalent to a theoretical plate;HETP)といい、これもカラム性能の尺度となります。
は小さいほどピーク幅は狭くなり、カラム性能が高いことを示します。ところで、は種々の因子の和として表わされます。移動相に気体を、固定相に液体を用いる気-液クロマトグラフィー(表7・1)では、は三つの因子の和として表わされます。
これはvan Deemterの式として知られており、A、B、Cは定数、は移動相の平均線速度です。第1項は充てん剤粒子の間隙により作られる多くの流路に起因するもので、渦巻拡散項とよばれています。第2項はカラム軸方向での成分の分子拡散に起因する分子拡散項で、第3項は成分分子が移動相と固定相間を移動する際の遅れに起因する物質移動に対する抵抗の項です。の関係を図7・4に示しますが、の最小値のときとなります。一方、液体クロマトグラフィーでは移動相中での分子拡散は普通無視できますが、の式はもう少し複雑となります。その式から、粘性の低い移動相を高温でゆっくり流すとが小さくなることが結論されています。
図7・4 van Deemter式のプロット
分離度
二つのピークの相対的な分離の程度を表わす尺度に分離度(resolution)があり
で定義されます。これは次式のように書き換えられます。
ここに、は分離係数(separation factor)とよばれ、で表わされます。二つのピークはでほぼ完全に重なり合い、でほぼ完全に分離しています。上の式より、ある分離を達成するのに必要なカラムの理論段数を計算することができます。
図7・5 二つのピークの分離度
7-2 7-4