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環境計測のための機器分析法 茶山健二
7章 クロマトグラフィー 流れで分離する
7-4  定性と定量
定性分析
 試料物質の同定に最もよく用いられている方法は保持時間に基づくものです。は試料をクロマトグラフに注入してからピークの頂点が現れるまでの時間、すなわち試料成分の最高濃度域が検出器に到達するまでの時間です。
 さて、は前記した式より明らかなように、クロマトグラフ条件が一定なら、分配係数によって変化します。ところで、は移動相、固定相および温度が一定ならば各成分に固有の値となるため、により試料成分の同定が可能となります。すなわち、同一条件下で測定された同じ成分のは等しく、が異なれば同じ成分でないといえます。しかし、が一致したからといって、必ずしも同じ成分であるとは限りません。したがって、確実に同定を行うには、他の適当な確認法を併用すべきです。
 保持時間以外に、ピーク頂点が現れるまでに流れた移動相の体積、すなわち保持容量(retention volume)も保持値として用いられており、は熱力学的関数との関係づけにおいて有利です。
 さて、測定条件を厳密に一定に保つことは難しく、特にカラムは同一カラムを用いない限り同一特性のカラムを再現することはできません。したがって、異なる装置で得られたデータを比較するのにでは不都合となります。この欠点を補うために、適当な内部標準物質を選び、試料成分の調整保持時間の調整保持時間の比で定義される相対保持値(relative retention)が用いられています。
はクロマトグラフ系が同じなら温度にのみ依存し、同一カラムを用いて得られるデータでなくても比較的再現性が良く、好都合です。
 GLCにおける保持値をさらに標準化したものに保持指標(retention index)があります。これはある成分の保持値が、アルカンの炭素いくつのものの保持値に等しいかを次式により計算で求めるものです。
ここに、はそれぞれ測定成分、炭素数Zおよび炭素数アルカンの調整保持時間です。たとえば、なる成分は、炭素数9.4個と想定されるアルカンに相当する保持がなされることを示しています。
定量分析
 通常、定量は成分ピークの面積を測定することにより行われており、ピーク面積の測定には表7・2に示した方法が用いられています。各成分の単位量あたりのピーク面積(感度という)は成分によって異なりますし、検出器の操作条件によっても変動しますので、定量を行う条件下で感度あるいは検量線(calibrationcurve)を求めておかなければなりません。絶対検量線法、内部標準法、標準添加法(表7・3)がよく用いられている定量法です。
 なお、ピークの幅が狭くて対称な場合は、ピーク面積の代りにピーク高さを用いて定量することも可能です。
表7・2 ピーク面積の測定法
インテグレーターを用いる方法
コンピューターを用いる方法
切り抜き法
半値幅法
表7・3 定量法
絶対検量線法
(absolute calibration method)
定量成分の絶対量とピーク面積との関係を求めて定量する方法で、同一条件下で一定量を正確に注入しなければならない。
内部標準法
(internal standard method)
試料中の成分と重ならない内部標準物質を定量的に加え、定量成分と内部標準物質の量比とピーク面積比との関係を求めて定量する方法で、注入量は正確である必要がなく、測定条件が多少変動してもその影響が少ない。
標準添加法
(standard addition method)
一定既知量の定量成分を添加し、添加によるピーク面積の増加分が添加量に基づくものとして定量する方法で、内部標準物質に適当なものがない場合に用いられる。
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