定性分析
試料物質の同定に最もよく用いられている方法は保持時間
に基づくものです。
は試料をクロマトグラフに注入してからピークの頂点が現れるまでの時間、すなわち試料成分の最高濃度域が検出器に到達するまでの時間です。
さて、
は前記した式より明らかなように、クロマトグラフ条件が一定なら、分配係数
によって変化します。ところで、
は移動相、固定相および温度が一定ならば各成分に固有の値となるため、
により試料成分の同定が可能となります。すなわち、同一条件下で測定された同じ成分の
は等しく、
が異なれば同じ成分でないといえます。しかし、
が一致したからといって、必ずしも同じ成分であるとは限りません。したがって、確実に同定を行うには、他の適当な確認法を併用すべきです。
保持時間以外に、ピーク頂点が現れるまでに流れた移動相の体積、すなわち保持容量(retention volume)
も保持値として用いられており、
は熱力学的関数との関係づけにおいて有利です。
さて、測定条件を厳密に一定に保つことは難しく、特にカラムは同一カラムを用いない限り同一特性のカラムを再現することはできません。したがって、異なる装置で得られたデータを比較するのに
では不都合となります。この欠点を補うために、適当な内部標準物質
を選び、試料成分
の調整保持時間
と
の調整保持時間
の比で定義される相対保持値(relative retention)
が用いられています。
はクロマトグラフ系が同じなら温度にのみ依存し、同一カラムを用いて得られるデータでなくても比較的再現性が良く、好都合です。
GLCにおける保持値をさらに標準化したものに保持指標(retention index)
があります。これはある成分の保持値が、
アルカンの炭素いくつのものの保持値に等しいかを次式により計算で求めるものです。
ここに、
、
、
はそれぞれ測定成分、炭素数Zおよび炭素数
の
アルカンの調整保持時間です。たとえば、
なる成分は、炭素数9.4個と想定される
アルカンに相当する保持がなされることを示しています。