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環境計測のための機器分析法 茶山健二
7章 クロマトグラフィー 流れで分離する
7-6  GC:測定装置1
 GC用装置をガスクロマトグラフ(gas chromatograph)といいますが、試料は注入部、分離カラム、検出器を通って装置系外に放出されます。
キャリヤーガス
 キャリヤーガスの流量は定流量バルブなどで一定に保たれており、化学的に不活性で熱的に安定なヘリウム、窒素がよく用いられています。なお、検出器の種類によって適合しないキャリヤーガスがあるので注意しなければいけませんが、キャリヤーガスの種類によって試料成分の分離状態にはほとんど影響がなく、固定相の選択によって分離が大きく左右されるのがGCの特徴です。
試料注入部
 試料は気体あるいは液体(溶液も可)の状態で、シリンジにてシリコンセプタムを通して注入されることが多いです。試料蒸気の拡がり幅を小さくしてカラムへ送り込むほどピークの分離は良いので、試料注入量を少なくすること、注入された試料は瞬間的に気化することが必要です。そのため、試料注入部は加熱装置により一定温度に保てるようになっていますが、不必要な高温度にすることは避けなければなりません。
図7・7 資料注入部の概略図
カラム(column)
 カラムには、内径2〜4mm、長さ1〜4mのステンレスまたはガラス製の細管に充てん剤を詰めた充てんカラム(packed column)と、さらに内径の小さい(0.1〜0.5mm)、長い(10〜50m)キャピラリー内壁に固定相をコーティングした開管カラム(open tubular column)があります。最近、キャピラリーの材質には溶融シリカがよく用いられていて、溶融シリカカラムは不活性、曲げやすく、折れにくいという特徴があります。

(1) 充てんカラム
 細管中に詰める充てん剤には、モレキュラーシーブ、アルミナ、シリカゲル、活性炭あるいはポーラスポリマーなどの固体固定相のものと、担体とよばれる不活性な保持体上に液体固定相を物理的あるいは化学的に保持させたものとがあります。前者の固体固定相は主に無機ガスや低沸点有機化合物などの分離にしか適用されません。これら以外の試料成分の分離には、非常に多くの種類の液体の固定相が使用されています。表7・4に示した固定相液体はこれらのほんの一部にすぎません。この表において、極性はスクアラン(squalane)を基準にした値で、大きくなるほど極性が増大し、使用温度は測定状況により同じ固定相液体でも異なってきます。分析したい試料に適合する極性と使用温度の固定相液体を選択しなければなりません。
表7・4 固定相液体の例
固定相液体極性使用温度(℃)
Squalane010〜140
Apiezon L14020〜200
Si1icone SE-3022050〜280
Silicone DC-55062010〜200
Dioctyl phthalate(DOP)8300〜140
SiIicone OV-1788020〜300
Silicone OV-210162020〜270
Polyethylene glycol 20M(PEG 20 M)231070〜210
Diethylene glycol succinate(DEGS)354020〜210
(2) 開管カラム
 カラム充てん剤を使わないため、キャピラリーは中空構造になっており、キャリヤーガスの透過性がよいです。そのため、開管カラムは長いものが使用でき、カラム効率がきわめて高くなるので、多成分混合試料の分離に威力を発揮します。しかし、試料注入量は充てんカラムの場合に比べはるかに少量でなければならず、特別の付属装置が必要です。最近では固定相液体をキャピラリー内壁にコーティングするだけでなく、内壁との化学結合や内壁にコーティングした固定相内での架橋反応により固定相の安定化がなされ、カラムの寿命が長くなっています。
 なお、開管カラムには内径の小さいキャピラリーが一般に使用されているため、開管カラムのことをキャピラリーカラム(capillary column)ともいいます。厳密にはキャピラリーカラムとは内径が小さいだけで中空とは限らず、細かい充てん剤を詰めたカラムもあるが、実際にはほとんど使われていません。したがって、キャピラリーカラムといえば開管カラムを意味していると考えてよいです。
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