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環境計測のための機器分析法 茶山健二
7章 クロマトグラフィー 流れで分離する
7-7  GC:測定装置2
検出器 (detector)
 カラム中で分離されて出てきた各成分を検出し、その流出量に対応する応答を示す働きをするのが検出器です。検出器には不特定多数の化合物に応答する万能型のものと、特定の化合物にのみ高感度に応答する選択的なものがあります。また、検出過程で試料成分が破壊される場合と、破壊されない場合があります。以下に述べる検出器がよく用いられていますが、分析目的により検出器を選択しなければなりません。

(1) 熱伝導度検出器 (thermal conductivity detector, TCD)
 GCの誕生初期から現在に至るまで使用されている最も一般的な検出器です。試料成分ガスが通るR1とキャリヤーガスのみが通るR4からなる図7・8のような回路に一定電流を通じ、 R1とR4ともキャリヤーガスだけが流れている状態でつり合わせておきます。R1にキャリヤーガスと熱伝導度の異なる成分が入ってくると、R1の温度が変化し、 R1の抵抗値が変化します。この変化をGの電位差として検出するのがTCDの原理です。抵抗体の温度変化を検出しているため、キャリヤーガスの種類と流量、検出器の温度、回路の電流などの操作条件を一定にしなければなりません。また、キャリヤーガスと試料成分との熱伝導度の差が大きいほど検出器の応答は大きく、他の物質より熱伝導度の高いヘリウムや水素、特に不活性なヘリウムがキャリヤーガスとしてよく使用されています。したがって、キャリヤーガスと同じ熱伝導度を示す物質が検出できないだけで、キャリヤーガス以外の物質の検出が実質的には可能といえます。このようにTCDは万能型検出器であるが、感度的には他の検出器より劣っています。
図7・8 TCDセル回路
(2) 熱伝導度検出器 (thermal conductivity detector, TCD)
 カラムからの流出ガスに水素ガスを混ぜ、ノズル尖端で燃焼させます(図7・9)。ノズル上部の電極間には電圧がかかっています。キャリヤーガスだけの場合は両電極間に流れるイオン電流は小さく、一定です。ここに水素炎でイオン化される有機化合物が入ってくると、電極間に流れるイオン電流が増大します。したがって、このイオン電流を測定することにより、有機化合物を高感度に検出できますが、水素炎でイオン化されない無機化合物などは検出できません(表7・5)
図7・9 FIDの原理図
表7・2 FIDで検出できない物質の例
He  O2  CO  SiCl4
Ne  N2  CO2  SiHCl3
Ar  NH3  H2O  SiF4
Kr  No  H2S
Xe  NO2  COS
H2  N2O  CS2
(3) 炎光光度検出器 (flame photometric detector, FPD)
 還元的水素炎中で硫黄やリンを含む化合物はそれぞれ特有の炎光を発するので、光学フィルターを通してこれらの光を光電子増倍管で測定すれば、硫黄やリンを含む化合物が選択的に検出できます。リン化合物の場合、試料量と検出器応答は直線関係にありますが、硫黄化合物の場合には検出器応答は試料量のほぼ二乗に比例します。
図7・10 FPDの原理図
(4) 熱イオン化検出器 (thermionic detector, TID)
 加熱されたアルカリ金属塩表面上で選択的に生成した化学種とアルカリ金属原子間の電子移動によるイオン電流の増大を測定しています。この場合、検出器に供給するガスの組成や加熱温度により検出器の応答が異なってきます。図7・11に水素炎を用いるFTD(flame thermionic detector)の原理図を示します。FIDと同様のノズル上にアルカリソースを含むコレクター電極があり、窒素やリンを含む化合物に対して高い応答を示します。
図7・11 FTDの原理図
(5) 電子捕獲検出器 (electron capture detector, ECD)
 63Niからのβ線でキャリヤーガス(窒素)をイオン化し、電極間に電圧をかけると一定の電流が流れます。ここに親電子性物質が入ってくると、電子を捕獲して負イオンとなり移動速度が遅くなります。また、負イオンは陽イオンと結合しやすいため、電極間の電流は減少します。この減少分を測定すれば、親電子性物質を選択的に検出できます。炭化水素類はECDにほとんど応答を示しませんが、ハロゲン、リン、ニトロ基などを含む化合物を高感度に検出することができます。
図7・12 ECDの原理図
 これら5種類の検出器の比較を表7・6に示しましたが、検出下限は特に高感度に応答する化合物に対する値で、化合物と装置の条件や状態によっても大きく変化します。なお、これら以外にも光イオン化検出器、ヘリウムイオン化検出器などが市販されています。
表7・6 検出器の比較
検出器 検出下限 (g)ダイナミックレンジ分析対象
TCD10-8105キャリヤーガス以外何でも
FID10-11107有機化合物一般
FPD10-11105硫黄、リンを含む化合物
FTD10-14104窒素、リンを含む化合物
ECD10-13104ハロゲン、ニトロ基を含む化合物
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