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環境計測のための機器分析法 茶山健二
7章 クロマトグラフィー 流れで分離する
7-12  HPLC:[分離機構による分類2]
イオン交換クロマトグラフィー
 イオン交換クロマトグラフィーは固定相であるイオン交換体への親和力の差により試料イオンは分離されます。イオン交換体は骨格をなす基材と、イオン交換能をもつ交換基とから成っています。基材にはシリカゲルやポーラスポリマーが用いられ、前者の場合はイオン交換のみが分離に関与していると考えられるが、後者の場合には疎水性相互作用なども関与してくることが多いです。イオン交換体は交換基により表7・11に示す4種類に分類されます。基材にスチレンとジビニルベンゼン共重合体を用い、これにイオン交換基を導入したイオン交換樹脂がよく用いられています。陽イオンの交換に用いられる代表的なものにスルホン酸基を導入したものがあり、たとえばH形樹脂中のH+は溶液中のNa+と次式のように交換されます。
表7・11 交換基によるイオン交換体の分類
イオン交換体交換基有効pH*
強酸性陽イオン交換体-SO3H2〜14
弱酸性陽イオン交換体-COOH8〜14
弱塩基性陰イオン交換体-N+H(CH3)2C1-0〜6
強塩基性陰イオン交換体-N+(CH3)3C1-0〜10
*シリカゲル基材のものはpH2〜8以外での使用は好ましくない
R-SO3-H++Na+R-SO3-Na++H+
H形 Na形
 スルホン酸基は強酸性で、pH2以上でほぼ完全に解離するため有効にイオン交換でき、強酸性陽イオン交換体とよばれています。カルボキシル基をもつ交換体も陽イオンの交換が可能だが、弱酸性のためpH8以上でなければ有効にイオン交換できず、弱酸性陽イオン交換体とよばれています。
 陰イオン交換体は第四級アンモニウム基を導入した強塩基性陰イオン交換体と、第一から第三アミノ基を導入した弱塩基性陰イオン交換体に分けられます。後者はpH6以下の酸性側でのみアンモニウム基の状態になり、イオン交換できます。OH形の陰イオン交換体のCl-とのイオン交換は
R-N+(CH3)3OH-+Cl-R-N+(CH3)3Cl-+OH-
R-N+H(CH3)2OH-+Cl-R-N+H(CH3)2Cl-+OH-
OH形 C1形
で表わされます。
 このような原理により、H形強酸性陽イオン交換樹脂とOH形強塩基性陰イオン交換樹脂の混合床中に水を通すと、水中の陽イオンと陰イオンはそれぞれH+とOH-とイオン交換し、非常に純度の高い脱イオン水を得ることができ ます。
 また、イオンの価数や大きさによりイオン交換体に対する親和力が異なるため、イオン同士の分離が可能です。たとえば、金属イオンの一般的傾向として、イオン価が異なる場合はイオン価の大きいものほど、イオン価が等しい場合は原子番号の大きいものほど強酸性陽イオン交換体に対する親和力が強いといわれています。イオン交換体による試料イオンの保持は移動相のイオン強度により変化しますし、弱電解質の試料では解離に影響を与える因子(移動相のpH、組成など)によっても変わります。
 近年、無機イオンを対象とするイオン交換クロマトグラフィーで、分離カラムの後に除去カラムを接続し、試料イオンと反対の電荷をもつ移動相中のイオンを取り除いて、電気伝導度検出器で高感度検出するイオンクロマトグラフィー(ion chromatography)とよばれる方法が開発されました。最近では、除去カラムは必ずしも必要ではなくなり、無機イオンだけでなく有機イオンの分析も可能です。
 試料イオンをイオン交換モードで分離するのではなく、移動相中に対イオンを加え、試料イオンとイオン対(ion pair)を形成させ、このイオン対を逆相モードで分離しようとするイオン対クロマトグラフィー(ion-pair chromatogra-phy)も広く用いられています。加えるイオン対試薬として、陰イオン性試料にはアルキルアンモニウム塩が、陽イオン性試料にはアルキルスルホン酸塩がよく使われています。
ゲルクロマトグラフィー
 ゲルクロマトグラフィーは固定相に三次元網目構造をもつ多孔性粒子を用い、試料成分はその細孔への浸透性の差により分離されます。細孔の大きさより大きい成分は細孔内部へ浸透できないため粒子の間を素通してきます。一方、細孔内部へ浸透できる成分は細孔内に取り込まれるため、溶出が遅くなります。
表7・12 ゲルクロマトグラフィー用固定相の例
多孔性シリカ
多孔性ガラス
ポリスチレンゲル
ポリビニルアルコールゲル
ポリヒドロキシエチルメタクリレートゲル
 固定相となるゲルには、多孔性シリカや多孔性ガラスのほかに架橋された有機ポリマーゲルなどが用いられています。ゲルの細孔の大きさにより、Aより大きい分子はゲルの全細孔から排除されて浸透できず、Bより小さい分子はゲル細孔に完全に浸透できます。Aを排除限界、Bを全浸透限界といい、AとBの間の大きさの分子が大きい分子から順に溶出してきます(図7・17)。ゲルには種々の細孔径のものが市販されており、分離しようとする成分の大きさに適合するゲルを選択する必要があります。
 さて、有機ポリマーゲルの場合、移動相によって膨潤割合が異なることがありますので、ゲルをよく膨潤させる溶媒を移動相に用いることが必要です。多孔性ガラスや多孔性シリカではその心配はないが、吸着サイトがあるので注意しなければいけません。
図7・17 高速液体クロマトグラフの概念図
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