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modern american economy
2-2. 持続的成長とケインズ主義の開花
担当:甲南大学 稲田義久


 アメリカの戦後政治は、2期にわたるトルーマン大統領(1945-53)民主党政権から共和党大統領アイゼンハウアー(1953-61)の政権に移行します。また2期にわたり大統領を務めた共和党のアイゼンハワーは、1961年1月に若きケネディに政権を譲ります。これから黄金の60年代が始まるのです。

総需要管理政策:経済安定化機構
 すでに述べたように、戦後のアメリカン・システムの特徴の国内面における第3の特徴は、戦後のアメリカ政府の卓越した経済を安定化させる機能です。特に、財政・金融メカニズムを通じたマクロ経済管理政策が優れています。

 その基本機能は以下のようなものです。例えば、景気が過熱する傾向の場合には、財政支出抑制と金融引き締め政策を実施することで、総需要抑制と信用縮小を同時に実現し、インフレーションを適切なレベルにコントロールするのです。

 逆に景気後退が生じたときには、金融緩和と財政的刺激的な政策によって経済の急速な収縮を防止するのです。

 経済成長を促進しインフレを抑制するという複数の目標を実現するためには、複数の政策手段を当てるという「ポリシー・ミックス」の考え方が強調されることになりました。具体的に財政・金融政策をどのように組合を選択するかについては、理論モデルの発展とともに計量モデルの発展を無視することはできないでしょう。

 1930年代に、ケインズはマクロ経済的に総需要が不足する原因の解明を通じて、不況回復政策の理論的基礎を与えました。戦後、サミュエルソンらの「新古典派総合」の彫拓を経るとともに、経済政策は「反循環的(counter cyclical)」な経済安定化機能として定式化されることになりました。

 ローレンス・クライン教授がはじめて戦前・戦後のアメリカ経済を活写する計量モデルを開発したのが、1950年代前半です。L.R. Klein, Economic Fluctuations in the United States 1921-1941(1950)やL.R. Klein & A. Goldberger, An Econometric Model of the United States 1925-52 (1955) は、この時期の成果です。これらのモデルは、以後の計量モデルのプロトタイプとなったものです。計量モデルの作成やシミュレーションの経験を通じて、金融・財政政策の効果の知見の蓄積も行われ、実際の政策決定に役立ちました。

 また経済安定化機能として制度化されたメカニズムを通じての経済安定化機能にも注目が集まりました。すなわち、自動安定化装置(built-in-stabilizer)です。これには累進所得税制と社会保障制度がその機能を果たします。景気の過熱期には政府財政支出を削減して総需要を抑制し、景気後退期には逆に作用して総需要を拡大する機能があるのです。

図2-1 財政の経済安定化機構
図2-1 財政の経済安定化機構

表2-3 連邦財政の対GDP比:年度: %
  歳入計 歳出計 国防費+
社会保障
国防費 社会保障 財政余剰
1940 6.8 9.9 3.4 1.8 1.7 -3.1
1941 7.5 11.9 7.5 5.6 1.8 -4.4
1942 10.2 24.4 19.2 17.8 1.4 -14.2
1943 13.3 43.6 38.1 37.0 1.1 -30.3
1944 20.9 43.6 38.7 37.8 0.9 -22.7
1945 20.4 41.9 38.2 37.5 0.7 -21.5
1946 17.7 24.8 20.5 19.2 1.3 -7.2
1947 16.5 14.8 7.0 5.5 1.5 1.7
1948 16.2 11.6 4.8 3.5 1.3 4.6
1949 14.7 14.5 6.4 4.9 1.5 0.2
1950 14.0 15.2 6.7 4.9 1.9 -1.1
1951 16.3 14.4 9.1 7.4 1.7 1.9
1952 18.9 19.4 15.0 13.2 1.7 -0.5
1953 18.8 20.6 16.1 14.3 1.8 -1.8
1954 18.3 18.6 15.1 13.0 2.1 -0.3
1955 16.5 17.2 13.2 10.7 2.5 -0.8
1956 17.5 16.6 12.4 10.0 2.5 0.9
1957 17.8 17.0 12.9 10.1 2.8 0.8
1958 17.1 17.7 13.6 10.1 3.5 -0.6
1959 16.2 18.9 13.9 10.0 3.8 -2.6
1960 17.9 17.8 13.1 9.3 3.8 0.1
1961 17.6 18.2 13.5 9.2 4.3 -0.6
1962 17.6 18.9 13.6 9.2 4.4 -1.3
1963 17.7 18.5 13.3 8.9 4.4 -0.8
1964 17.6 18.5 12.9 8.5 4.4 -0.9
1965 16.9 17.1 11.5 7.3 4.2 -0.2
1966 17.3 17.8 12.1 7.7 4.4 -0.5
1967 18.3 19.4 13.5 8.8 4.7 -1.1
1968 17.5 20.4 14.5 9.4 5.1 -2.9
1969 19.7 19.4 14.1 8.7 5.4 0.3
1970 19.0 19.3 13.8 8.1 5.7 -0.3
1971 17.3 19.4 13.9 7.3 6.7 -2.1
1972 17.5 19.5 13.8 6.7 7.1 -2.0
1973 17.6 18.7 13.1 5.8 7.2 -1.1
1974 18.2 18.7 13.1 5.5 7.6 -0.4
1975 17.8 21.2 14.5 5.5 9.0 -3.4
1976 17.2 21.5 14.8 5.2 9.6 -4.2
1977 18.0 20.7 14.1 4.9 9.2 -2.7
1978 17.9 20.6 13.5 4.7 8.8 -2.7
1979 18.5 20.2 13.4 4.7 8.7 -1.6
1980 18.9 21.6 14.4 4.9 9.5 -2.7
1981 19.7 22.3 15.2 5.2 10.0 -2.6
1982 19.1 23.1 16.2 5.7 10.5 -4.0
1983 17.3 23.3 16.9 6.1 10.8 -6.0
1984 17.4 22.2 15.8 5.9 9.9 -4.8
1985 17.7 22.8 16.2 6.1 10.1 -5.1
1986 17.5 22.5 15.9 6.2 9.7 -5.0
1987 18.3 21.5 15.6 6.0 9.6 -3.2
1988 18.1 21.2 15.2 5.8 9.4 -3.1
1989 18.4 21.2 15.0 5.6 9.3 -2.8
1990 18.0 21.9 14.9 5.2 9.7 -3.9
1991 17.8 22.3 15.0 4.6 10.4 -4.5
1992 17.5 22.2 15.9 4.8 11.2 -4.7
1993 17.6 21.5 15.8 4.4 11.3 -3.9
1994 18.1 21.0 15.4 4.1 11.3 -2.9
1995 18.5 20.7 15.1 3.7 11.4 -2.2
1996 18.8 20.2 14.8 3.4 11.3 -1.4
1997 19.3 19.5 14.5 3.3 11.2 -0.3
1998 19.9 19.1 14.0 3.1 10.9 0.8
1999 20.0 18.6 13.5 3.0 10.5 1.4
2000 20.9 18.5 13.5 3.0 10.5 2.4
2001 19.9 18.6 14.0 3.0 10.9 1.3
2002 17.9 19.4 14.9 3.4 11.6 -1.5
注:GDPは財政年度ベースに変換しています。


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