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modern chinese economy
7-2. 国際収支黒字化と為替レート改革、
       通貨交換性確立
担当:甲南大学 青木浩治 藤川清史


 貿易・外資ブームに沸く一方で、1994年に中国は一つの歴史的転換点を経験しました。それは、発展途上国としては非常に稀な「国際収支黒字基調の定着」です。

 中国も高度経済成長期の日本と同じように、93年まではストップ・アンド・ゴーを繰り返してきました。しかし1993年の経常収支赤字を最後に、中国の貿易・経常収支は以後、恒常的に黒字化します。中国はこの国際収支黒字転換により外貨準備を着々と蓄積し、現在では日本に次いで世界第二番目の外貨準備保有国になっています(2002年末時点で2864億ドル)。

 この外貨制約の克服は非常に意味のあることです。というのは、外貨が希少であると、通貨当局は何らかの方法でそれを節約・配分しなければならず、それは通常「自国通貨を代価とした外貨取得」に制限を加えるという形をとります。なお、この制限を撤廃し、自由な外国為替取引を認めることを「通貨の交換性」確立と言います。ですから通貨の交換性に制限が加えられると貿易の決済はギクシャクし、その健全な発展の妨げとなるのです。事実、中国も1993年まではこの通貨の交換性を制限しており、外国為替レートも公定為替レート、外貨調整センター・レート、ヤミ・レートの三つが存在しました(図7-5)。

図7-5 中国元の対米ドル為替レート
図7-5 中国元の対米ドル為替レート
注)
内部決済レートとは1981-85年の間、輸出のみに適用された為替レート(2.8元/ドル)、外貨調整センター・レートとは1987-93年に企業間で自由な外国為替取引を認めた市場において成立した為替レート。

資料)
IMF, International Financial Statistics.

 しかし外貨準備の蓄積により、こうした非効率的な規制は徐々に意味を失っていきます。まず1994年1月に、公定為替レートを外貨調整センターレートにさや寄せさせる形で切り下げ、為替レートを一本化します。これによって永らく続いていた「双軌制」もしくは「複数為替レート制度」に終止符が打たれました。第二に、モノやサービスの貿易、ならびにそれに付随した資本勘定の通貨の交換性を確立します(形式上は1996年12月。なお、外資系企業には1996年7月から通貨の交換性確立、これによって外貨バランス規制が撤廃)。つまり国内企業に課されていた「外貨留保制(取得した外貨の一定割合を公定為替レートで国家に上納し、残りを留保できる制度)」は廃止、そして経常勘定に関わる中国人民元を代価とした外国通貨の取得制限が撤廃されます。

 もっとも、通貨の交換性といっても、それは経常勘定(ならびにそれに付随した貿易信用等の資本取引)に限定されています。証券取引や国際融資、個人の外貨持ち出し等は依然、制限されており、資本勘定までを含めた完全な自由化はまだ先のことでしょう。

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