modern chinese economy
	7-3. WTO加盟
	
	担当:甲南大学 青木浩治 藤川清史
 
 2001年12月、中国はWTO加盟を果たします。国際金融面でのハードルであるIMF・世銀加盟が1980年ですので、それに遅れること約12年ということになります。以下、中国のWTO加盟に焦点を当てて、そのポイントを解説しておきます。
7-3-1 中国の貿易システム
 最初に、WTO加盟前における中国の貿易システムの特徴について簡単にまとめておきます。一言でそれを表現すれば「二重構造」ということであり、強力に保護された一般貿易と限りなく自由貿易に近い加工貿易の並存、そして80年代後半から徐々に後者の比重が拡大したということです。一般貿易に課されてきた主要貿易規制・慣行をまとめると次のようになります。
| (1) | 貿易権 | 
  | 
 中国では「貿易権」という政府認可がないと貿易を行うことができません。改革・開放直前では、この貿易権を付与された企業は国営の外貿企業10社だけでしたが、1979年の「放権譲利」により、地方政府傘下の外貿企業、生産部門所管官庁傘下の外貿企業、そして一部大型生産企業傘下の外貿企業が新規参入を果たします。またその後も貿易権拡大が行われ、1992年時点で貿易権取得企業は数百社だったものが、1995年では3400社、1996年では1万社、1998年では2.1万社と次第に拡大していきました。しかしこうした新規参入が急拡大したのはせいぜい90年代央からであり、しかも1998年まで地場の民営企業には貿易権は認められていませんでした。なお、外資系企業は比較的広範に貿易権が認められています。しかしそれも加工用に必要な輸入資材の輸入権、製品の輸出権に限定されており、外国製品を中国国内で販売する権限はありません。中国国内で販売できる外資系企業の製品は、中国国内で生産された製品に限定されていたのです。
 
  | 
| (2) | 関税 | 
  |  中国の一般貿易に課される関税率は90年代央まで非常に高率でした(表7-8)。しかし1990年代央からAPEC(アジア太平洋経済協力)の貿易・投資自由化行動として断続的に関税引き下げを行い、WTO加盟直前までに発展途上国平均の15%水準に引き下げられていました。 
| 表7-8 中国の関税率 | 単位:% |  
|   | 
1987年 | 
1992年12月 | 
1993年12月 | 
1996年4月 | 
1999年10月 | 
2001年1月 | 
 
| 平均関税率 | 
43.1 | 
39.9 | 
36.4 | 
23.0 | 
17.0 | 
15.3 | 
 
| 消費財 | 
65.8 | 
63.9 | 
60.5 | 
35.5 | 
25.5 | 
  | 
 
| 資本財 | 
29.5 | 
36.2 | 
32.9 | 
21.6 | 
17.2 | 
  | 
 
| 中間財 | 
28.8 | 
21.7 | 
29.0 | 
17.1 | 
15.1 | 
  | 
 
 
 | 
 
 
資料)大橋英夫「シリーズ現代中国経済5:経済の国際化」 名古屋大学出版会、2003年、99・104ページ。 
 
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| (3) | 非関税措置 | 
  | 
 関税以外の貿易阻害措置を「非関税措置(Non-Tariff Measures: NTM)」と言います。その代表格は既説の貿易権制限ですが、その他にも輸入許可証制度といって、輸入の度に逐一政府許可が必要という仕組みがありました。政府の許可が下りなければ輸入できないので、その場合には禁止的な関税が課されたことと同じです。また、石油製品、化学肥料、自動車・オートバイ用部品、テレビ・ブラウン管、カメラ、時計等の輸入には輸入数量を限定する輸入数量規制があります。そして、天然ゴムや木材・合板、羊毛・アクリル、鋼材等の品目の輸入を政府指定企業以外は行えません。また、食糧、植物油、食糖、タバコ、原油・石油製品、化学肥料等の輸入も同様に政府の管理下にありました。 | 
 
7-3-2 WTO加盟の意義
 中国ではWTO加盟のことを「入世」と呼んでいます。中国のWTO加盟申請そのものは1986年と、意外に古いのですが、かつてハンガリーやポーランド、チェコと言った社会主義国の加盟を認めたところ、期待した通りの自由化が実行されなかったために、既加盟は中国の加盟に慎重でした。しかし、それも2001年12月の加盟によってクリアーされ、中国は名実ともに国際社会の一員となったわけです。
 中国のWTO加盟は、中国にとって非常に大きい意味を持ちます。それを簡単に整理すると、次のようにまとめられるのではないでしょうか。
| (1) | 
教科書的になりますが、貿易自由化は原則として外国ばかりでなく、中国にとっても資源配分の効率化、競争激化による効率改善というメリットがあります。 | 
| (2) | 
WTO協定の一つに1994年GATT(関税及び貿易に関する一般協定)がありますが、その第一条に「最恵国待遇」が謳われています。加盟国である限り、差別してはならないという原則ですが、これによってアメリカからの最恵国待遇が無条件で得られるようになりました(それまで毎年、議会の承認が必要でした)。 | 
| (3) | 
GATT第11条には「数量制限の一般的廃止」が謳われています。このガットの原則に従って、永らく繊維貿易に課されてきた数量規制が2004年に廃止される予定です。繊維は中国の代表的な輸出品ですので、中国がWTO加盟国になることは、繊維産業にとっては非常に有利です。ただし中国製品の輸入急増に対する一時的な輸入規制措置(セーフガードと言います)の発動が2008年まで可能です。 | 
| (4) | 中国は世界で最も頻繁に反ダンピング・輸出補助金相殺関税措置の適用を受けてきた国です。しかしWTOメンバー国となったことで、理不尽な反ダンピング税や相殺関税の適用を免れることが可能です。同様に、WTO協定上、中国にとって不満足な扱いを受けた場合には、ジュネーブのWTO本部に訴訟を起こすことができます。このような紛争処理メカニズムを経由することにより、WTO非加盟国という理由で外国からの理不尽な差別的措置から自らを防衛できるようになりました。 | 
| (5) | 最後に、中国の国内法規・慣習を国際ルールにさや寄せすることにより、中国のビジネス慣行の改善を期待できること、そしてなによりも中国の国是である「社会主義市場経済」路線が不動の方針であることを内外にアピールできました。 | 
もちろん、経済改革にfree lunchはありません。WTO加盟により一部の割を食う人たちが現れるのは避けられないわけで、中国では農業、国有企業にそのしわ寄せがいくと言われています。
 
7-3-3 WTO加盟で変わること
 最後に、WTO加盟により中国の貿易制度がどのように変わるかについて、簡単にまとめておきます。
| (1) | 関税引き下げ 
WTO加盟により10年間で関税率を引き下げていくことになりました。その水準は表7-9のようになっています。また「情報技術協定」に参加し(2003年4月確定)、2005年までに情報技術関連製品の関税率をゼロにする予定です。 
 
	
	| 表7-9 中国の関税率(単純平均) |  
	
	
	
	|   | 
	品目数 | 
	1998年 | 
	2001年 | 
	2010年 | 
	 
	
	| 全品目 | 
	7151 | 
	17.5% | 
	13.6% | 
	9.8% | 
	 
	
	| 鉱工業製品 | 
	6174 | 
	16.6% | 
	12.7% | 
	8.9% | 
	 
	
	| 農産品 | 
	977 | 
	22.7% | 
	19.3% | 
	15.0% | 
	 
	 
	 |   
 
 | 
| (2) | 非関税措置の緩和・撤廃 
関税以外の非関税措置に関する主要な規制緩和は、次のようになっています。 
	
	
	| (1) | 貿易権の拡大と制度廃止 
	加盟後3年以内に個人・企業に対して貿易権を開放し、2005年から同制度そのものを廃止予定。なお、外資系企業については、出資比率に応じて貿易権が1-3年の間に全面開放される予定です。この措置により、外貿企業による貿易独占の時代は完全に終わることになります。
	 | 
	 
	| (2) | 輸入制限措置の撤廃 
	最も重要な輸入制限措置であった輸入許可証制度は2005年を持って廃止される予定です。また、輸入数量制限、指定貿易制度等の非関税措置も2005年を持って廃止、その後はガット11条ルールに従って関税による保護措置へ全面移管します。それまでの間、輸入数量枠拡大、指定貿易企業枠拡大等の措置がとられ、規制緩和が進むことになりました。
	 |  
	 
	 
なお、加盟後8年間毎年約束を審査し、10年以内に最終審査が行われる予定です。また加盟後12年間は、中国からの輸入急増に対する一時的な輸入規制が可能です。この点は一見したところ中国にとって厳しい内容ですが、旧社会主義経済の要素を依然、残している現状からは止むをえない措置でしょう。 | 
 
7-3-4 直接投資ブームの再開
 1999-2000年において低迷していた直接投資は、2001・2002年において再び増加に転じました(
図7-1)。実際、2000年の投資実行額は407億ドルでしたが、2001年には469億ドル、2002年には527億ドルと急増し、中国はアメリカを抜いて世界第一位の直接投資受入国になりました。世界的な直接投資ブームはITブームの崩壊と株価の低迷により、2000年をピークに大幅に後退していますが、中国だけは例外です。実は、その背後にはWTO加盟に伴う大幅な規制緩和があったのです。以下、簡単に要点をまとめておきます。
| (1) | 貿易関連投資措置 
WTO協定の中に「貿易関連投資措置(Trade Related Investment Measures: TRIMs)」という協定があります。このルールは外資系企業を国内企業と差別することを原則として禁止しており、この協定に加盟することによって従来、中国が外資系企業に課してきたパフォーマンス要求(原則輸出7割、国内販売3割の輸出要求、輸入に必要な外貨を輸出によって調達することを義務付ける外貨バランス規制、進出企業に一定以上の現地部品・原材料購入を義務付けるローカル・コンテンツ規制、技術移転要求等)が撤廃されました。第二に、これらパフォーマンス要求を条件として許可されていた輸入許可証の発給制限が廃止されました。第三に、輸送機械に関する規制が、このTRIMs加盟により緩和されます。要するに、外資に対する多くの規制が緩和されることになり、その一環として2000年10月より、中国の外資三法(合弁・合作・独資企業法)がWTO協定と整合的になるように改正されました。
  
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| (2) | サービス市場開放 
もうひとつ重要な協定として「サービス貿易に関する一般協定(General Agreement on Trade in Services: GATS)」があります。中国にとって特に重要なものは(1)流通業への外資参入規制緩和(加盟後3年以内に出店地域規制・店舗数規制・出資比率規制を段階的に撤廃)、(2)銀行・保険・証券業への参入規制緩和、(3)電気通信サービス業の参入規制緩和、です。この規制緩和によりメーカーの販売店出店やガソリンスタンドの設立、小売業ばかりか卸売業への参入自由化、金融機関の進出や出資が大幅に容易化しました。
 
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| (3) | 外資認可基準の変更 
1995年より中国は「外国投資方向指導規程」「外国投資産業指導目録」(および「中西部地区優勢産業外資投資目録」)という外資導入のガイドラインを策定しています。具体的には優遇・奨励・制限・禁止という分類にしたがって、外資参入の容易度ならびにその方向性を誘導してきました。このガイドラインは1997年と2002年にそれぞれ改定され、最新版では従来制限業種となっていた自動車が奨励業種に格上げされました。 |