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modern chinese economy
12-1. 中国の為替レート制度と外国為替管理
担当:甲南大学 青木浩治 藤川清史


 1994年1月に公定為替レートを外貨調整センター・レートに鞘寄せさせる形で切り下げ・一本化した後、中国元の対米ドル為替レートはきわめて安定的に推移してきました(図12-1)。特に1998年以後は1米ドル=8.27-8.28元という非常に狭い変動幅の中でしか変動していません。中国の為替レート制度は建前上は「管理変動相場制」なのですが、実態的には「米ドル・ペッグ」です。ここで「ペッグ(peg)」とは釘付けるという意味です。

図12-1 中国元の対米ドル為替レート
図12-1 中国元の対米ドル為替レート
資料) IMF, International Financial Statistics その他。

1) 1996年12月から「経常取引に関わる通貨の交換性(貿易や貿易信用に関わる人民元を代価とした外国通貨の取得に制限を付けないこと)」を確立しました。しかし国内輸出企業は、一部を除いて輸出により得た外貨収入を全て銀行に売らなければなりません。また外国通貨の購入も銀行からしか行えず、しかも厳しいチェックが行われています。つまり、人民元を代価とした外国通貨の売買は銀行に集中され、その銀行を人民銀行が管理する仕組みになっています。こうした仕組みを「外貨集中制」と言います。
2) 人民元と外国通貨の取引を中国国外で行うことは禁止されています。例えばアジア通貨危機直前まで、タイやマレーシア、インドネシアの通貨はシンガポールという国外で自由に取引されていました。こうした取引を「オフショア取引」と言いますが、中国では人民元のオフショア取引はご法度です。
3) お金の貸借に関わる取引を資本取引と言います。中国では直接投資以外の資本取引は厳しく制限されています。なお、これを「資本取引規制」と言い、その規制を緩和・撤廃することを「資本自由化」と言います。例えば対中企業進出に必要な出資や子会社への貸付は比較的容易ですが、外国人による人民元建ての株式・社債、ならびに国債投資は禁止されています。同様に、中国人(企業を含む)による対外証券投資も原則禁止であり、銀行を経由して行う以外に方法がありません。いずれにしても外国資産を取得するために「人民元を売って外貨を取得する」ことに厳重な規制が敷かれており、「資本流入は比較的寛容、資本流出は厳重に規制」という規制体系になっています。

 以上のような仕組みによって人民元と外貨の交換、つまり「外国為替取引」はほぼ100%銀行組織ならびに上海の外国為替市場に集中されます。そして、その集中された外国為替需給をこれまた100%人民銀行が吸収しています(取引の大部分は人民銀行と中国銀行の身内間取引です)。このように中国の外国為替取引は(1)厳格な資本取引規制、(2)官製外為市場、の二つによって特徴付けられると言ってよいでしょう。

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