経営財務論 |
企業が新たに投資の決断を迫られた場合、その投資からどれだけの収益率が稼げればよいかを考えるにあたって、資本コストという概念が重要です。企業は各種の資金を利用しますが、資金の提供者は当然それに対する報酬を要求します。企業は資金を利用する以上、投資家からの要求に答える必要があり、それが資金を利用したことに対するコスト、資本コストとなります。 |
銀行借入や社債発行といった他人資本[ 資本調達形態]の資本コストは、単純に支払い利子と考えても問題はありません。 しかし、株式の資本コストに関してはこのように簡単に考えることはできません。単純に考えると、企業は株主に対して配当を支払うので、それを資本コストであると考えるかも知れませんが、株主は配当だけではなく、株価が上がることも期待して株式を取得しています。つまり、株主は、配当だけではなく、株価の値上がりも含んだ一定の利益を上げることを企業に対して要求していることになり、これが株式の資本コストとなります。資本コストを満たさなければ、その企業は株主から見放され、株価も下がり、乗っ取りや買収の危険にさらされたり、将来再び株式で資本調達することも難しくなるでしょう。 |
投資の決定において、投資が実行に値するものであるためには、株式の資本コストを満たす収益率を株主が稼ぎ出せることが最低条件です。つまり、負債の利子を支払い、株主が要求する収益率を実現できる配当と株価の上昇をもたらす投資であることが必要になります。ただし、この株式の資本コストはいわば株主の心の中にある数値で、他人資本の資本コストのように単純に何%かわかるものではありません。ただし、数値に関して最低限いえることは、通常の利子率よりもより大きな収益率であることです。株主は株式を購入するとき、銀行預金のように無リスクで利子率を稼ぎ出す機会があるにもかかわらず、リスクを冒してその企業の株式を購入しています。そのリスクを負担する見返りを当然要求しますから、その分より大きな収益率(=リスク・プレミアム)を期待しているはずです。 |
(馬場 大治) |