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quantum mechanics
1-7. ボーア原子とボーアの仮説
量子力学 - 太田 雅久

 原子番号Zの原子はZ個の陽子と、一般的には陽子よりも多い数の中性子と、Z個の電子でできています。陽子と中性子は 10-13cm程度の範囲に凝縮されて原子核を構成し、そのまわりにZ個の電子が存在し、その広がりはおよそ 10-8cmであることはよく知られています。

 しかし、19世紀の終わりから20世紀の初頭にかけて、原子の構造は全く知られていませんでした。現在、私達が頭に描いている原子の構造に到達するきっかけとなった実験が1908年のGeigerとMardenによるα粒子の、重い原子による散乱です。ラザフォード散乱という呼び方で知られています。このことから、原子の中心に強い電荷のかたまり(原子核)が存在し、電子は原子核をおおうような形で存在していることが明らかになり始めました。

 ここで問題は、古典的な考え方に従うと、原子核のまわりを電子が安定に回転できないということです。では、地球やその他の惑星は太陽の周りを安定にまわっているではないかと考えるでしょうが、電子の場合は電荷をもっています。円運動は等加速運動の一種です。電磁気学によると、加速している電荷からは電磁波が放出されます。円運動している電子が電磁波という形でエネルギーを失い続けると、最終的には中心部分の原子核に引き寄せられて原子はつぶれてしまいます。

この問題の解決に糸口を与えたのがボーアの仮説です。教科書に書かれている内容を理解する手助けとして、どのように考え方を変えなければならないかを述べてみましょう。

 まず、電子が円軌道を描いて回転しているという描写を完全に支持することをやめましょう。中心力場での円運動では、古典力学の場合、どのような半径でも実現します。つまり、粒子のもつエネルギー(ポテンシャルエネルギーと運動エネルギー)は連続的にどのような値でも可能です。しかし、光電効果の所でも言ったように、現実の原子では、電子のとれるエネルギー状態は離散的になっています。それらが例えば、EE'であったとしましょう。電子の状態は、円運動していたものが中心に引き寄せられるように、連続的にエネルギーを変えることができないのです。EからE'のエネルギー状態への突然の遷移のみが可能です。

 ボーアの仮説ではこのような物理的描写(当時はまだ確立していなかった)に立って述べられたのではないかと思われます。

 実際、クーロンポテンシャルに束縛された電子のエネルギー状態を計算すると、実験的な原子の発光スペクトルに矛盾しないエネルギー状態(固有状態)が求まります。これは第5章で述べられます。

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