物質とは何か?それを問うことは物理学のひとつの王道である。物質は金属、半導体、絶縁体にわけることが出来る。そしてそれらは当然原子から構成されている。それでは原子はどういう構造をしているか?原子は電子と陽子から構成され、電子が陽子の周りを回っている。しかしそれは地球が太陽の周りを回るようなイメージとは若干異なる。量子力学的には電子は粒子であるとともに波としての性質をもつ。ここがポイントである。地球が太陽の周りを回る場合には軌道半径、地球の運動エネルギーはいかなる値も取りうる。しかし電子は波であるために定在波が立つような条件以外では波は減衰してしまう。定在波が立つ条件は弦の長さが半波長の整数倍の時のみである。波長はエネルギーに相当するため電子の取りうるエネルギーはとびとびになる。この「とびとび」ということが量子力学の「量子」に相当する。この様な観点から量子力学は波動力学と言われれこともある。 二つの原子が近づいて結合すると(分子になると)電子の波が干渉を起こし2つのエネルギーレベルに分裂する。さらに原子が集合して固体になるとエネルギーレベルは幅を持ちバンドとなる。(図2−2−1)
このバンドはもともと原子最外殻にある電子(価電子)のエネルギー準位で構成されているためバンドの中には電子が存在することができる。一方バンドの外では電子は存在できない。これを禁制帯という。電子はエネルギーの低いバンドからつまっていくがこの電子が(絶対零度で)存在することの出来る最大のエネルギーをフェルミエネルギー(EF)またはフェルミレベルという。(フェルミレベルに関しては統計力学で学習する。)フェルミエネルギーがバンド内にあるときには電子は自由に動くことが出来、金属となる。(図2−2−2a)
一方フェルミエネルギーが禁制帯内にあるときには禁制帯には電子が存在できないためにフェルミエネルギー以下のバンドは電子で満たされ、フェルミエネルギーよりも上のバンドは空となる。(図2−2−2b)この様な状態では金属とは違って電子は自由に動けず、半導体、または絶縁体となる。フェルミレベルよりも低いエネルギーをもつバンドは原子の価電子で構成されているので価電子帯といいフェルミレベルよりも高いエネルギーにあるバンドは電気伝導に寄与するので伝導帯という。価電子帯と伝導帯の間の禁制帯幅をエネルギーギャップまたはバンドギャップという。もしエネルギーギャップを越えて伝導帯に電子が励起されれば伝導帯の電子は自由に動くことが出来、電気伝導に寄与する。電子は光エネルギーまたは熱エネルギーで励起することが出来る。(図2−2−2c)半導体は絶対零度では伝導電子が存在せず電気伝導はないが常温では熱励起によって伝導電子が存在し電気伝導性を示す。 話を単純化するために電子を水にたとえてみよう。フェルミエネルギーというのはそれ以下には電子が存在することが出来るエネルギーであるから水の最上部すなわち水面に相当する。図2−2−3〜図2−2−5のように二つのペットボトル(ボトル)を用意しこれらをエネルギーバンドにたとえる。ボトルの中には水を入れることが出来るが2つのペットボトルの間には水を入れることが出来ない。従ってここは禁制帯に相当する。(図2−2−3a) 上または下のペットボトルの半分ぐらいまで水を入れる。(フェルミエネルギーがバンドの中にある状態)このペットボトルも右側を持ち上げると水は左に移動する。(電圧をかけ右側のポテンシャルをあげれば電子は左に移動し電流が流れる。電圧は電子に対するポテンシャルであるから電圧を印加する事は水に対して高さを変えることに相当する)(図2−2−3b)2つのペットボトルの間に水面を持って来ようとした場合には2つのペットボトルの間には水を入れることが出来ないため下のペットボトルにいっぱいに水がつまる。(電子は価電子体に存在し伝導体に電子はいない)(図2−2−4a)この状態で右側を持ち上げても水は左に移動しない。(電子は動かず電流は流れない)(図2−2−4b)これが絶縁体または絶対零度での半導体である。次ぎに下のペットボトルの水を一滴取り出し上のペットボトルに持ち上げた状態を考える。(電子を価電子体から伝導帯に励起する。)(図2−2−5a)この状態で右側を持ち上げると下のペットボトルの空気は右側に移動し上のペットボトルの水滴は左に移動する。すなわち伝導帯の電子は左に動き電気伝導が生じる。(図2−2−5b)金属の場合(図2−2−3b)に比べて移動する水(伝導電子)の量が少ないために半導体は電気伝導度は小さい。
このように半導体は絶対零度では伝導体に電子が存在しないために電気伝導はない。(図2−2−2)室温でも熱的に励起される電子の数は少なく抵抗率は非常に大きい。半導体に不純物を添加(ドープ)すると電気電導率を高めることができる。このドーピングは半導体においては非常に重要でこれをシリコンを例にして説明する。Siは4配位であるために平面図で表現すれば図2−2−6aのように結合している。これに不純物として5価のP(リン)やAs(砒素)を不純物として添加すると図2−2−6bの様に一つの電子が余る。
この電子は室温程度で容易に不純物からはなれ結晶中を動き回る。これが半導体の伝導電子となる。このような不純物をドナーと言い、不純物によって電子を与えた半導体をn型半導体と呼ぶ。逆に不純物として3価のB(硼素)やAl(アルミニウム)を加えたときには電子が足りなくなり電子の穴が生じる。(図2−2−6c)このタイプの不純物はアクセプターという。この電子の穴を正孔またはホールと呼びこのような半導体をp型半導体と呼ぶ。電子とホールを前述の水の動きにたとえれば上のペットボトルの水滴が電子に、下のペットボトルの空気が正孔に相当する。従ってドープされた半導体では電気電導率が高まる。不純物のドープされていない純粋な半導体を真性半導体という。真性半導体、n型半導体、p型半導体のフェルミレベルをバンド図に書くと図2−2−7となる。室温程度で電子が容易に不純物からはなれるということがフェルミレベルが伝導帯又は価電子帯に近いことに相当する。
以上をまとめると次のようになる。
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