図説に関する簡単な解説
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2−6. トンネルダイオード
― 電子は壁をすり抜ける? ―
 

 電子は素粒子の一つであり、粒子として取り扱われることが多い。しかし電子を波動として取り扱わなければ説明できないことも多い。個々の電子を取り扱うような、ミクロな世界では粒子性と波動性を明確に区別することは出来ない。これは量子力学の根本原理であり、トンネル効果はそれが半導体素子として役立つ現象のひとつである。電子を粒子として考えた場合には、電子はそのエネルギーよりも高いポテンシャル(壁)を乗り越えることは出来ない。しかし実際はポテンシャル(壁)の幅が狭ければ、その高さが有限である限り、電子はある確率でポテンシャル(壁)をすり抜けることができる。これがトンネル効果であり、この現象を利用したのがトンネルダイオードである。このトンネル効果の実証によって江崎玲於奈博士がノーベル賞を受賞したのはあまりにも有名である。トンネルダイオードはいささか挙動が難しいので、ここではpn接合におけるトンネル効果を説明する。pn接合では基本的には逆方向には電流が流れない。ところが図2−4−1において逆方向に高電圧をかけると、空乏層は非常に薄くなり電子は空乏層をトンネルし電流が流れ始める。(図2−6−1a)これをダイオードのツェナー降伏といい、電流電圧特性は図2−6−2の様になる。この様なダイオードをツェナーダイオードという。先ほどのように電子を水にたとえて考えると図2−6−1bの様になる。この場合、壁がどんなに薄くても穴さえ空いていなければ水が壁をすり抜けることはない。これが古典論と量子論の大きな違いである。ツェナーダイオードの逆方向の降伏電圧は、定電圧源を作成する回路に利用される。従って、定電圧源を使用している人は知らず知らずのうちに量子力学のもたらす不思議な現象〜トンネル効果〜を利用していることになる。
注)実際はダイオードの降伏はトンネル効果によるツェナー効果によるものと、なだれ降伏によるものとがある。ここでは、なだれ降伏に関する説明は割愛する。


図2−6−1a

図2−6−1b


図2−6−2

電子は量子力学的には粒子であると共に波の性質を持つ。
電子の世界では古典力学では説明のできないトンネル効果が存在する。


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