(1)対象を決める
分析したい広告は決まったでしょうか? まず、気になる広告を一枚、机の上に置いてみましょう。ここでは、ベネトン社の広告を取り上げてみることにします 。それは、同社を宣伝したいからではなく、同社の広告が、表象分析の素材として、あるいは空間として優れているからです。広告から社会や文化が見えてくるのです。 ベネトンは、1965年に設立され、約120カ国に5000店舗(2004年現在)を持つイタリアのファッションメーカーです。1990年代初頭には、日本はイタリアとドイツに次いで世界第三番目のマーケットとして重要な拠点となり、その後中国やインドなど他のアジア諸国にも進出して、世界的な不況下にあっても着実に売り上げを伸ばしてきました。先日教室で尋ねてみたところ、ベネトンの名前を知らない学生は一人もいませんでしたが、一躍その名が知られるようになったのは、広告戦略に負うところが大きいと言われています。1984年に広告クリエイティヴ・ディレクターに採用されたオリビエーロ・トスカーニは、1985年に人種と多文化の調和を謳った「ユナイテッド・カラーズ・オブ・ベネトン」を広告のコピーに採用し、1989年に現在のロゴマークを決定、1990年代には次々とセンセーショナルな広告を発表し続けました。この間、売り上げは15年間で15倍に伸びたと言われています。 (2)片っ端から資料を集める
対象が決まれば、その会社や業種の発表している広告を片っ端から集めてみましょう。 インターネットで手軽に調べるだけでなく、実際に掲載されている雑誌などを調べることも必要になるでしょう。月刊誌や週刊誌などのバックナンバーに関しては、図書館は所蔵していない場合が多く、保存状況が悪くてなかなか網羅して見ることができませんが、本格的に探す場合は、大宅壮一文庫を利用するのもよいでしょう。 ベネトンの広告については、日本でも新聞や雑誌で特集が組まれたり、本が出版されるなど、1980年代末から1990年代にかけて大きな注目を集めていました。それらの記事を探すのも面白いかもしれません。わたしの場合は、ショップに入ってカタログや広告を片っ端からいただいて集めていました。海外旅行に行っても、お店を見つけると飛び込んで資料収集に勤しんでいました。その広告や対象が置かれている空間に自分の身体を置いてみること、これは面倒くさがらずにやってみましょう。 (3)対象の概要を知る
ベネトンの広告について調べ始めると、あなたはすぐに1989年代末から1990年代に話題になった広告群に出会うと思います。たとえば、1989年に登場した白人の赤ん坊を抱いた黒人女性の裸の胸のアップや、一緒に手錠に繋がれた黒人と白人の男性の手、1991年の色鮮やかなコンドーム、へその緒をつけたままの新生児や、牧師と修道女のキス、1992年のエイズ患者の臨終シーン、1993年の社長自ら全裸になったポスター、1994年のボスニアで戦死した血塗れの兵士の服などが挙げられます。これらの広告に対しては、発表当時から賛否両論が沸き起こり、既存の権威や文化に挑戦する広告として賞賛する論評もある一方、有色人を「野蛮」や「自然」に結びつける人種的ステロタイプであるとして批判もなされ、広告の掲載が拒否されるなどの「事件」も起こりました。それらの歴史は、新聞記事を検索すれば、ある程度把握できるかもしれません。
(4)資料整理と保存
情報はだいぶ集まったでしょうか? 広告が何十点、何百点も集まったかもしれません。また、新聞や雑誌の記事も相当数になるでしょう。これらの収集したモノは、面倒がらずにひと手間かけておくと、のちのちまで使える「資料」となります。広告などの図版は、一点ずつ写真を撮ったり、デジタル情報に変換しておくとあとで便利です。スキャナーで読み取ったり、デジタルカメラを使えば難しいことではありません。簡単なキャプションもつけておくこと。(たとえば、いつの広告か、掲載された媒体は何か、広告のタイトルがあるか、など必要に合わせてキャプションを作成します。)ただし、広告や絵画を再撮する場合は、著作権があるので、再使用には要注意です。せっかく大量に情報を集めても、整理と保存を怠れば、活用することはできません。時間の経たないうちに、こまめにやっておきましょう。
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