社会調査工房オンライン-社会調査の方法
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4-3いかに視覚イメージを読み解くか――第1次世界大戦期、米国プロパガンダポスターを例に I.基礎篇:イントロダクション
4-3-1 はじめに


 20世紀は、戦争の世紀、メディアの世紀であったという。21世紀に入ってからも戦争は止むことなく、また私たちは毎日、街頭の広告や、TVやインターネットの情報、アニメ、マンガ、美術館の絵画にいたるまで、おびただしい量のビジュアルイメージに囲まれ日々新たに遭遇しながら生活している。これらの情報を私たちはどのように読み解いているのだろう? また、どのように読み解くことを期待されているのだろうか? 多種多様にわたる視覚イメージの中でも、この項目では「戦争の表象/表象の戦争」の問題を取り上げる。戦争という最大の暴力に人々がどのようにして駆り立てられてきたのか、戦争を肯定し、敵を憎む意識はいかに生み出されてきたのかを知ることから、戦争のない未来の構築は始まる。
 第2次世界大戦におけるプロパガンダの主役が映画やラジオであったことはよく知られているが、第1次世界大戦でのそれは、19世紀からの美術の伝統と新しい工業印刷技術を融合させたポスターであった。印刷技術の進歩・変化により大型化が可能になったポスターが、第1次世界大戦で果たした役割は実に大きかったのである。
 これから私たちは、第1次世界大戦期のプロパガンダ・ポスターを例に、視覚イメージの読み解き方を学ぶ。プロパガンダ・ポスターについては最近、メディア研究者に限らず、歴史学、人類学、社会学、美術史研究など幅広い領域において研究が進み、各地の大学やミュージアムが所蔵するポスターをデータ化して公開している。たとえば、日本では、東京大学大学院情報学環が所蔵する661枚の第1次世界大戦期のプロパガンダ・ポスター・コレクションがあり、ウェブ上で公開されている。このうち3分の2がアメリカ合衆国において制作・発行されたものであり、その他の所蔵ポスターはカナダ、フランス、イギリス、イタリアなど連合軍側のものである。第1次世界大戦期のプロパガンダ・ポスターについては、海外ではアメリカ合衆国議会図書館や、日本国内の京都工業繊維大学美術資料館などが多くのポスターを所蔵しているが、ここでは、インターネットで簡単に検索できる東京大学大学院情報学環の所蔵するアメリカ合衆国のポスターをはじめ、他の文献やデータを利用して分析を進めてみたい1。(以下の文中においてポスターに付けられた#番号は、東大のコレクション中の番号を指す。)


1 東大のコレクションについては、次の文献が参考になるので、興味のある人は読んでほしい。
◇吉見俊哉『戦争の表象――東京大学情報学環所蔵第一次世界大戦期プロパガンダ・ポスターコレクション』東京大学出版会、2006年
◇吉見俊哉総監修『モード・オブ・ザ・ウォー――東京大学大学院情報学環所蔵 第一次世界大戦期プロパガンダ・ポスターコレクションより』印刷博物館、2007年

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