4-3 | いかに視覚イメージを読み解くか――第1次世界大戦期、米国プロパガンダポスターを例に I.基礎篇:イントロダクション |
プロパガンダ・ポスターでは迷う男に対して、おまえは真の男か/女か、敵か/味方かと迫るだけではない。カナダの募兵のポスターでは、背景のない空間にいる男に「あなたは例外ではない、さあ入隊しよう」と誘いかけている【#525】(http://archives.iii.u-tokyo.ac.jp/search/detailresult/id/200)。そして、迷う彼がいよいよ一歩を踏み出すのは、「弱い女・子どもを守るため」である。
#205 「海兵隊に伝えよう!」James Montgomery Flagg、制作年不明、米国
次に、「海兵隊に伝えよう」(#205)という募兵ポスターを見てみよう。男の足元には大きな見出しのついた新聞が落ちている。記事のタイトルは「ドイツの野郎が女子どもを殺している」。つまり、男は、敵が女・子どもを殺す新聞記事を見るや否や義憤に駆られて、新聞と帽子を下に叩きつけたのである。画面に描かれたのは背広の上着を脱ぎ捨て、喧嘩のポーズを取った男が兵士になる瞬間である。 このようにここで挙げた例は、アメリカ、カナダ、イギリスと国も状況も異なるにも関わらず、募兵のための視覚の文法は驚くほど似通っていることに気づくだろう。いずれも日常生活にみる「男らしさ」「女らしさ」のジェンダー規範を忠実に守っており、その規範から外れることへの恐怖を巧みに突いたものであることが指摘できる。
当時、アメリカ合衆国の典型的な兵士は、「21歳から23歳の、白人で、独身の、そして教育程度の低いたいていは高校に通っていなかった召集兵」であり、「おそらく18パーセントもが外国生まれで、40万人が黒人」4だった。つまりポスターのターゲットとなった若者は、蝶ネクタイとスーツ姿で表わされる男性よりおそらく低い階層だったと考えられる。
4 メアリー・ベス・ノートン他『アメリカ社会と第1次世界大戦』三省堂、1996年、p.220
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