社会調査工房オンライン-社会調査の方法
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4-3いかに視覚イメージを読み解くか――第1次世界大戦期、米国プロパガンダポスターを例に I.基礎篇:イントロダクション
4-3-7 大量の図像を扱うとき、どのように分析を始めるのか?


「第1次世界大戦期プロパガンダ・ポスターコレクション」にアクセスしよう。
Try!
⇒ 膨大な視覚資料を集めて表象分析に入るとき、まずどうすればよいのだろうか?  さっそく、東京大学大学院情報学環アーカイブの「第1次世界大戦期プロパガンダ・ポスターコレクション」のホームページ(http://archives.iii.u-tokyo.ac.jp/)を見てほしい。そして、アメリカ合衆国のポスター500点余をざっと眺めてみよう。

 アーカイブにうまくアクセスできただろうか? 膨大な量のポスターの図像に圧倒されているかもしれないが、これらのポスターを分析するとき、何から始めたらよいのだろうか? ここで紹介する方法は決まったものではなく、あくまで読み解きのひとつの方法として学んでほしい。
 幸い、公開されているポスターには、文字テクストの日本語訳のほか、制作国・発行年・クライアント・制作者・版式・サイズなどの基礎的データが判明した範囲内で詳細に明記されているので、それらを用いて分析に入ることもできるだろう。だが、ここではビジュアル情報から読み取る作業に入ることにする。分析する対象によって視点は異なってくるであろうが、ここでは<女>がどのように描かれているかに注目してみる。もちろん、<女>の代わりに、たとえば、男、子ども、白人、黒人、食べ物、移民などをキーワードとして読み解くこともできるだろう。

画像を見て、ラフなメモを作る
Try!
⇒ 「東大WWIポスターコレクション」を見て、ポスターで<女>がどのように描かれているかを片っ端から紙にメモしてほしい。その<女>は誰なのか? 「母、娘、看護師、マリア、女性兵士、通信士、労働者」など、誰が見ても明らかだと思える明示された役割や人物を書きだそう。最初から整理して分類しようと思わずに、この段階ではラフなメモでよい。

 メモは準備できただろうか? 次にこのメモを作る際に気づいたポスターの図像の特徴などを書き留めておこう。たとえば、わたしがこのポスター群を最初に見たとき作ったメモの一部は次のようなものだった。「なぜ、父ではなく、母が国債購入を呼びかけているのか? / なぜ、入隊呼びかけの女性がセクシーなのか? / 兵士を率いる女性に女神とセクシー女がいる / 女神とセクシー女の区分が難しい / 女神がやたらと多い / 過去から呼び出されているのは誰か?・・・」。これらの疑問は分析を進める中で解決できる場合もあれば、未解決のまま残ることもあるだろう。この段階では、無理やり整理しようとせずに、わからないことをそのまま置いておくこと。混沌としたままでよい。また、画面で描かれている出来事については、戦争、行進、食事、介護などと特定してみよう。
 図像のメッセージを理解するためには、そこに描かれた女神が誰なのか、米国の「自由の女神」なのか、英国を表わす「ブリタニア」なのか、わからなければ分析できないこともある。図像の約束事や文化的コードに習熟することが必須であるが、それは調べながら進むことにしよう。まず、分類するときに一番難しいのは、自分の思い込みをできるだけ排することである。これまでの自分の行ってきた分類概念にとらわれていると、目の前の図像の読み解きが、先に結論ありきの平板でつまらないものになってしまうことがある。

 そして、女性の役割や状況などを書き留めたメモを見て、大きく整理し直してみる。すると、米国の第1次世界大戦期のプロパガンダ・ポスターに見る<女>は、(1)女神、(2)家庭人(母・妻・娘)、(3) 女性看護師、(4)戦争支援職(看護職以外)、(5)銃後の女性労働者、(6)セクシーガール、の6種に類型化できることがわかる。この場合、特徴的だったのは、(1)〜(5)の役割に分類できないセクシーな若い女性が頻繁に登場することだったので、それを「セクシーガール」と名付けて一項目設けた。その他にも分類不可能なイメージがあれば、それはそのまま捨てずに置いておこう。6類型がどのような図像で描かれ、どのような機能を果たしているのかについては、次節4-4で詳しく検討したい。

コレクションの来歴に注意せよ

 ある図像の集団を表象分析するとき、気をつけなくてはならないのは、対象とする集合体の性格を十分に吟味することである。量が多いからと言って、必ずしもその集合体が全体の性格を万遍なく表わしているかは保障の限りではない。たとえば、東京大学大学院情報学環の所蔵するアーカイブ「第1次世界大戦期プロパガンダ・ポスターコレクション」は、どのような経緯で東大に集められたのか? 誰が、どのような目的で、いつ、収集したのか? 詳細はまだよくわかっていないが、同コレクションのHPでの説明によれば、「本コレクションの来歴については定かではないが、外務省情報部が収集したポスターを新聞研究所時代に譲り受けたものだとされている」(小泉 智佐子)とあり、そのことがコレクションの性格にどのように反映しているのかも考えてみなくてはならないだろう。
 コレクションの性格を考慮せずに分析するとどうなるのか? たとえば、ある書物に掲載されたポスターだけを対象として第1次世界大戦期のポスターを特徴づけるとする。だが、その書物に掲載されたポスター群がどのような基準で選ばれているのか、偏りがないのか、などの吟味がなければ、抽出された特徴を普遍化して論ずることはできないので、特に注意が必要だ。視覚資料の場合、おろそかにされがちであるが、描かれた史資料に対する原典批判は必ず必要である5


5 ◇ピーター・バーク『時代の目撃者――資料としての視覚イメージを利用した歴史研究』(諸川泰樹訳)中央公論美術出版、2007年
◇ジョン・A・ウォーカー&サラ・チャップリン『ヴィジュアル・カルチャー入門――美術史を超えるための方法論』晃洋書房、2001年

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