4-3 | いかに視覚イメージを読み解くか――第1次世界大戦期、米国プロパガンダポスターを例に I.基礎篇:イントロダクション |
「第1次世界大戦期プロパガンダ・ポスターコレクション」にアクセスしよう。
アーカイブにうまくアクセスできただろうか? 膨大な量のポスターの図像に圧倒されているかもしれないが、これらのポスターを分析するとき、何から始めたらよいのだろうか? ここで紹介する方法は決まったものではなく、あくまで読み解きのひとつの方法として学んでほしい。
画像を見て、ラフなメモを作る
メモは準備できただろうか? 次にこのメモを作る際に気づいたポスターの図像の特徴などを書き留めておこう。たとえば、わたしがこのポスター群を最初に見たとき作ったメモの一部は次のようなものだった。「なぜ、父ではなく、母が国債購入を呼びかけているのか? / なぜ、入隊呼びかけの女性がセクシーなのか? / 兵士を率いる女性に女神とセクシー女がいる / 女神とセクシー女の区分が難しい / 女神がやたらと多い / 過去から呼び出されているのは誰か?・・・」。これらの疑問は分析を進める中で解決できる場合もあれば、未解決のまま残ることもあるだろう。この段階では、無理やり整理しようとせずに、わからないことをそのまま置いておくこと。混沌としたままでよい。また、画面で描かれている出来事については、戦争、行進、食事、介護などと特定してみよう。
そして、女性の役割や状況などを書き留めたメモを見て、大きく整理し直してみる。すると、米国の第1次世界大戦期のプロパガンダ・ポスターに見る<女>は、(1)女神、(2)家庭人(母・妻・娘)、(3) 女性看護師、(4)戦争支援職(看護職以外)、(5)銃後の女性労働者、(6)セクシーガール、の6種に類型化できることがわかる。この場合、特徴的だったのは、(1)〜(5)の役割に分類できないセクシーな若い女性が頻繁に登場することだったので、それを「セクシーガール」と名付けて一項目設けた。その他にも分類不可能なイメージがあれば、それはそのまま捨てずに置いておこう。6類型がどのような図像で描かれ、どのような機能を果たしているのかについては、次節4-4で詳しく検討したい。 コレクションの来歴に注意せよ
ある図像の集団を表象分析するとき、気をつけなくてはならないのは、対象とする集合体の性格を十分に吟味することである。量が多いからと言って、必ずしもその集合体が全体の性格を万遍なく表わしているかは保障の限りではない。たとえば、東京大学大学院情報学環の所蔵するアーカイブ「第1次世界大戦期プロパガンダ・ポスターコレクション」は、どのような経緯で東大に集められたのか? 誰が、どのような目的で、いつ、収集したのか? 詳細はまだよくわかっていないが、同コレクションのHPでの説明によれば、「本コレクションの来歴については定かではないが、外務省情報部が収集したポスターを新聞研究所時代に譲り受けたものだとされている」(小泉 智佐子)とあり、そのことがコレクションの性格にどのように反映しているのかも考えてみなくてはならないだろう。
5 ◇ピーター・バーク『時代の目撃者――資料としての視覚イメージを利用した歴史研究』(諸川泰樹訳)中央公論美術出版、2007年
◇ジョン・A・ウォーカー&サラ・チャップリン『ヴィジュアル・カルチャー入門――美術史を超えるための方法論』晃洋書房、2001年 |