社会調査工房オンライン-社会調査の方法
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4-4いかに視覚イメージを読み解くか――第1次世界大戦期、米国プロパガンダポスターを例に U.分析篇:WWIポスターに見るジェンダーの表象
<男>の表象と、ナショナル・ヒストリー
4-4-14 性的恥辱と国家の無防備


 プロパガンダ・ポスターではコロンブスから現大統領にいたるまでのアメリカ建国の英雄たちの名前を出すことによって、移住と勤労・成功というヨーロッパからの移民体験を共通の記憶として据え直し、「真正のアメリカ人」とアメリカの「正史」は再構築された。具体的な名前を持った実在のアメリカ建国の男性英雄は、抽象的なアメリカの女神像によって統合され、独自のナショナリズムを生み出した。
 だが、時として自由の女神は眠りこけるときがある。その無防備な姿は、国家の無防備さとそのまま重ね合わされて描かれた(http://snuffy.lib.umn.edu/image/srch/bin/Dispatcher?mode=600&id=msp00041「University of Minnesota Libraries A Summons to Comradeship: World War I and II Posters and Postcards」所蔵)。そして、眠りこけた自由の女神を起こすのは実在の(とされる)男である。セクシュアル化された女神と男とのジェンダー役割の典型は、「お前次第だ。祖国の名誉を守れ」(II’S UP TO YOU. PROTECT THE NATION’S HONOR, Schneck, 1917年)というポスターに明白に現われている。アメリカ議会図書館のサイト(http://www.loc.gov/)において「it's up to you protect the nation's honor」で検索をかけるとみることができる(最終確認日2009.6.11)。画面手前では、家の中でだらしなく眠りこける女神がいる。剣は手から離れ、肩はむき出しになり乳首までが見えそうなほどである。それをアンクル・サムが窓の外から指さしポーズで指弾しているのだが、ここには、「眠る女」に対する「覚醒する男」、「内」に対する「外」の二項対立のなかで、女の性的恥辱を国家の恥と重ね合わせ、危機感を煽る構造が読み取れる。眠りこけるのが男性であったなら、性的恥辱と国家の無防備を暗示する意味は生まれ得ないであろう。
 第1次世界大戦期のアメリカ合衆国のポスターには、このようにジェンダーや階級、民族の政治学を利用して、あるときは差異を強調し、あるときは、同化と統合の機能を果たすことによって、白い肌の「真のアメリカ人」を再構築し、戦争プロパガンダの役目を担ったといえるのである。


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