社会調査工房オンライン-社会調査の方法
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4-4いかに視覚イメージを読み解くか――第1次世界大戦期、米国プロパガンダポスターを例に U.分析篇:WWIポスターに見るジェンダーの表象
WWIポスターに描かれた<女>の表象――女性イメージの分類と役割
4-4-2 女神


 まず、ポスターを概覧して気づくのは女神が頻繁に姿を現すことである。たとえば、「あなたは公債をもう買いましたか」【#1】(http://archives.iii.u-tokyo.ac.jp/search/detailresult/id/368)の女神は、松明を掲げ7つの突起のある王冠を被っていることから、「自由の女神」だとわかるだろう。
 ニューヨーク港内のリバティ島にある自由の女神は、右手に松明、左手にアメリカ独立宣言の銘板を抱える米国の民主主義の象徴である。1886年にアメリカ合衆国独立百周年を記念して、フランスから贈られた。王冠の7つの突起は、7つの大陸と7つの海に自由が広がることを意味し、女神の足元の引きちぎられた鎖は圧政からの解放と自由を表わしている。
 第1次世界大戦が始まった頃には設置から約30年余りがたっていたが、移民たちにとってはまだ新天地と統合の象徴でもあったであろうことが、その他のポスターからうかがえる。たとえば、「あなたがはじめてアメリカの自由に感動したときのことを思い出そう」【#19】(http://archives.iii.u-tokyo.ac.jp/search/detailresult/id/363)や、「食料が戦争に勝つ――あなたはここに自由を求めてやってきた。今やそれを維持するために力を貸すべきだ」【#246】(http://archives.iii.u-tokyo.ac.jp/search/detailresult/id/527)のポスターを見て、そこに描かれた自由の女神が、どのような意味を持っているのか、考えてみよう。

Think!
⇒ 「イギリスと並んで!」(#424、James Montgomery Flagg、1918年、米国)に登場する女性は、誰なのだろうか? 仲良く腕を組む男性は誰なのか?
#424 「イギリスと並んで」James Montgomery Flagg、1918年、米国

 古代ギリシア・ローマ風の鉄兜を被り、ユニオンジャックが描かれた盾と三又の戈を持つ右側の女性は、大英帝国を象徴する女神「ブリタニア」である。三又の戈(トライデント)は海神ネプトゥヌス(ギリシア神話のポセイドン)の持物であり、ブリタニアが海原を統べる女神であることを示している。
 一方、隣で仲良く腕を組んでいる初老の男性は、アンクル・サムである。Uncle Samの頭文字がUSであることから、アメリカ政府または同国民を指す。彼は、星条旗の柄のシルクハットを被り、紺のジャケットに紅白縞のズボンをはき、鬚をはやした白人男性として描かれることが多い。

 このように第1次世界大戦期のアメリカ合衆国のポスターには、アメリカの象徴である「自由の女神」や「コロンビア」、イギリスの「ブリタニア」、フランスの「マリアンヌ」が、それぞれの国家のシンボルとして登場している6。彼女たちは、人々を守り、自由・正義の担い手として男たちを軍隊へ誘い【#160】(http://archives.iii.u-tokyo.ac.jp/search/detailresult/id/92)、戦闘を扇動し【#70】(http://archives.iii.u-tokyo.ac.jp/search/detailresult/id/178)、あるときは将来の兵士である少年(ボーイスカウト)から自由の剣を受け取り導いている【#46】(http://archives.iii.u-tokyo.ac.jp/search/detailresult/id/383)。


6 女神像や戦争における女性表象についてさらに知りたい人は、次の文献を参照。
◇モリス・アギュロン『フランス共和国の肖像――闘うマリアンヌ1789‐1880』ミネルヴァ書房、1989年
◇若桑みどり『イメージの歴史』放送大学教育振興会、2000年
◇若桑みどり『戦争がつくる女性像』筑摩書房、2000年
◇若桑みどり『象徴としての女性像』筑摩書房、2000年

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