社会調査工房オンライン-社会調査の方法
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4-4いかに視覚イメージを読み解くか――第1次世界大戦期、米国プロパガンダポスターを例に U.分析篇:WWIポスターに見るジェンダーの表象
新しい女性像と戦意高揚――ギブソンガール、クリスティ・ガールの性的身体
4-4-9 新しい性的女性の身体像


 クリスティ・ガールに代表されるセクシーな女性像は、男装して男を軍隊に誘うだけでない。あるときは口を半開きにして、女性看護師や女神の記号を同時に備えた女性像にも変身する。女性看護師の白い制服・白い制帽を身にまとった女性の背中には大きな白い翼がついており、ときには、ポスターを見る者たち全てを抱擁するかのようにこちらに誘惑的に手を差し出すこともある。このように多くのポスターの中で、女神や女性看護師、母の姿をした女たちが、腕を広げて抱擁のポーズを示しているのも特徴的だが、それは男たちの癒しと性を与える帰還の場が、そこ(=女の胸)にこそあるからである。
 このようにアメリカの当時のプロパガンダ・ポスターにおいて、女性看護師―女神―母―セクシーガールのイメージが、密接に絡み合いながら形成されているのは、決して偶然の出来事ではない。女性看護師のイメージについて研究するアン・ハドソン・ジョーンズによれば、「このエロティックな性的対象としての看護婦というイメージは、大体のところは、看護婦が職業上、人間(男性)の身体を扱うことに対する男性のファンタジーに由来する。しかしこのような看護婦の仕事の親密な性格は、同時に、看護婦が他の人間の死に近接することを意味する。また、このために看護婦は、超越という霊的な次元に達しうる」15という。
 また、スケスケのセクシーなドレスをまとったクリスティ・ガールは、星条旗を持って「闘え、さもなくば公債を買え」【#39】(http://archives.iii.u-tokyo.ac.jp/search/detailresult/id/338)と呼びかけ、あるときは、戦場で戦う男たちの頭上で「道を切り開け」と鼓舞する【#63】(http://archives.iii.u-tokyo.ac.jp/search/detailresult/id/356)。もはやその身体像は、先に類型化した「自由の女神」のような伝統的図像ではなく、女神か女性看護師かのどちらか一方に分類できるイメージではない。
 すらっとした肢体とばら色の頬、澄んだ目、白い歯、ブロンドもしくは褐色の髪をした健康的で活力のある新しい女性像には、従来の美人画に求められた気品や繊細さのほかに、強烈な自我が表現されている。女神でありかつ女性看護師でもある彼女たちに共通するのは、そのセクシーさと若くて躍動する生々しい肉体であり、そこにはのちの大量消費時代の広告やピンナップガールに通じる原型を見ることができよう。それは、吉見俊哉が指摘するように、たとえばクリスティが1930年代に制作したラッキー・ストライクの広告(http://www.americanartarchives.com/christy,hc.htmでみることができる[最終確認日2009.6.11])に登場する若くて健康的で自立した女性像へと引き継がれたのであった。

#390 「アメリカの精神」Howard Chandler Christy、1919、米国

15 前掲、ジョーンズ、p.2

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