構想
ゼミでパンフレットの制作をすると聞いたのは、前期がもうすぐ終わる7月だった。社会学科ではどのような授業をしていて、どのような学生たちが通っていて、どのようなキャンパスライフを送っているのかを、高校生向けに紹介するという趣旨だったのだが、少し面白そうだなと思ったのと同時に、「数あるゼミのなかでどうしてうちのゼミがそんな担当を」と内心思っていたのを覚えている。翌週のゼミからすぐに制作の担当を決めることになったのだが、あいにくその日は欠席してしまい、社会学科の何でもランキングか、社会学科のゼミナール紹介かという二つの選択肢しか残っておらず、最終的に私には後者のゼミナール紹介という、一番多くの取材が必要で、手間のかかるパートがめぐってきた。どのように仕上げていくのか当初まったくつかめず、フラフラと海を筏で漂流するかのような暗雲立ち込めたスタートとなったのである。
取材準備
担当ページのどこに何を持ってくるかなどはいっさい決まらないまま、ページ数的に見て扱うであろう三つのゼミを、九つのなかから比較的特色があるのではないかとの理由で選び、各先生方に取材に行くことから始めた。取材にはカメラを持参し、とりあえず@「専門研究」、A「ゼミナールのメンバーが個別に研究していること」、B「今現在興味がある、これから掘り下げて研究してみようと思うこと」、の三つの質問項目だけを用意し、後は取材の話のなかで出てきた、ネタになりそうなことをメモして追加で載せようと思っていた。意気揚々と研究室へ取材に向かったのだが、残念ながらお三方とも不在であった。後日出直して行ってみてもまた不在で、思わぬところで出鼻をくじかれる。これが後にも尾を引くのだが、やはり先生方は忙しいようで、つねに研究室に在室しているわけではなく、在室しておられても手が離せないため、また後日ということもあった。昼休みや授業後など、比較的在室しておられそうな時間帯を狙ってアポを取りに行くが、教授会などでまた出直しということもあったりした。
取材開始
予定よりも遅れてしまったが、何とか全員のアポを取り付けた。写真を撮る作業に加えて、質問の答えや使えそうなネタをメモする作業を一人でするのには不安を感じたので、ゼミの仲間にカメラ担当で付いてきてもらい、菅先生から取材をはじめた。取材は思ったより順調に進み、用意してきた質問とそれに対する答え、話のなかから出てきた使えそうなネタを合わせれば、3人の先生で1ページを十分に埋められる量の取材メモを取得できた。しかし、質問だけを漠然と決めただけであったことが仇となり、取材した先生によって、とくに質問Aの「ゼミナールのメンバーが個別に研究していることの紹介」に大きなバラつきができてしまい、回答を均一に合わせるために、後で再度取材に行くはめとなる。取材させてもらった一人の森田先生は、少し前に学会で中国へ行き、向こうの学生と話す機会があり、そのなかで学生たちの向上心の高さやしっかりとした考え方に驚いたらしく、日本の学生と比較して見て取れる差異と、それが生まれる理由や背景について詳しく話していただいた。また先生は、現在奈良の明日香村で耕作放棄地を使ってナッツ系の植物を中心に植えて農業をしているようで、そのなかで日本の健全とは言えない社会構造の再構築像と農業の重要性について、興味深い話を30分以上にもわたって熱心に話していただいた。(後に触れる事情により、今回は残念ながらバッサリいかせてもらうことになりました。申し訳ないです。)
見知らぬソフトとの格闘
一通りの材料が揃ったところでいよいよパンフレット制作に入ったのだが、InDesignというソフトにみんなが泣かされることとなった。今まで使ってきたMicrosoft Office系のソフトとは勝手が違い、思うように、いや全くと言っていいほど作業が進まなかったのだ。画面の拡大・縮小から、文字を打ち込むフレームの作り方、そこへ文章を流し込む方法、下の段への文章の繋げ方、行頭に一文字、二文字残る場合は、読みやすくするために文字の大きさを調整すること、文章は一段目、二段目、三段目とすべてがつながっているので、手直しするたびに文章の配置がおかしくなり、整えていかなければならないことなど、苦労の連続だった。そして、それに輪をかけて大変だったのが、画像の挿入や加工、図表の作成であった。Wordなら簡単なはずの作業だが、ソフトが専門的であるがゆえに複雑で、画像のサイズを変更する際には、歪ませないようフレームに合うよう整えるために縦横比に気を配りながら作業する必要があり、困り果ててWordで作った図表をInDesignにコピーする場合も、周りの線に歪みが生じるため、線を消す作業が必要となったりするなど、面倒なことはつきなかった。またそのなかで、InDesignで使う便利なコマンドを知らないばかりに、遠回りせざるを得ない場面が幾度となくあった。作業は放課後に一人ですることが多かったので、わからない操作はYouTubeでソフトの使い方講座を参考にしたり、それでもわからないときは社会調査工房の隣にあるCDC(コミュニティーデザインセンター)にいる詳しい方へ聞きにいったりもしたのだが、最後まで思うように使いこなすことはできなかった。
読み手を考えていなかったという過ち
みんながひとまず構想を終え、パンフレットの制作に入ってから、作業の進行状況を毎回ゼミで個別に発表していたのだが、先生やゼミのメンバーにある点で指摘を受け、文章を修正しなければならなくなってしまった。それは文章が硬くて読みづらいことであり、「取材開始」の最後に書いたように、当初載せていた森田先生の話など、用意していた三つの質問の後に書くはずであった文章がとくに不評であった。「これ、どこの高校生が読む気を起こすんだ」と言われ、高校生になったつもりで読んでみると、なるほどたしかに読む気がなくなるかもしれない、と思ったのである。内容ではなく表現方法がまずかったせいもあると思うが、とりあえず残すところは残して、かなりギリギリになってしまったのだが、とっつきやすそうな別の内容で執筆することにした。また、見開きが文章ばかりで読みにくかったので、文字のフォントや色や配置する角度を変え、さらに文字の背景に画像3枚を縦に並ばせ、連続性のあるものに変えてみたり、自分なりに工夫を凝らしたので、当初に比べてある程度満足できるものになったと思う。
制作を終えて
制作に入る前は、すぐに完成できる簡単なものだと考えていたのだが、蓋を開けてみれば思うように作業が進まず、ときどき思いつくアイデアもソフトを使いこなせないためにボツになり、妥協する形で別の物に変更を余儀なくされるなど、思うようにいかない点が多々あり、ときおり苛立ちさえ覚えた。しかし、少しずつだが操作方法にも慣れてきてペースも上がり、形になりはじめてくると、作業はしだいに楽しいものになっていった。このパンフレット制作で、私は何かを一から作る難しさと喜びの両方を経験した。たった2ページの担当であったが、真っ白な状態から、取材をしたメモを整理し文章に変え、全体の構成を練って画像を成形し添付するとともに、見栄えよくメリハリの利いたものにして形にしていく。出来上がりだけを表面的に見るとわからないが、裏には多くの工程と思考があり、苦労もある。様々な可能性のなかから一つを選択し、制作を進めることは、祈りにも似た感覚であり、かつ楽しいものであった。
教員からのコメント
取材時に森田先生の本棚を撮影していましたが、その写真が背景画像にピッタリでした。取材時にはとにかく目についたものを撮影しておくことが重要です。
質問Aの「ゼミナールのメンバーが個別に研究していることの紹介」は、仕上げの段階でカットしました。そのかわりに、もう少し読みやすい文章を書いてもらいました。
最初の段階では、かなり硬い文章でした。硬い文章でしたら、大学の公式のパンフレットがあります。今回の企画は、学生の目線からの学科紹介ですので、もっと読みやすく楽しい内容で書いてもらうことにしました。
仕上げの段階で、縦に並んだ3枚の画像の1つを少しずらして、アクセントをつけたり、文字を人物の外側にまわりこませたり、読みにくい文字を白色で縁取りをしたりしました。