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5-1-9 いろいろな「みる」
Example スケッチ―記録、記憶、コミュニケーションの手段

Example
スケッチ―記録、記憶、コミュニケーションの手段
バングラデシュ農村に滞在していたときは、時々、簡単なスケッチをしました。それぞれの場所でフィールドノートに描いて、部屋に戻り、整理しやすいようにB6版の記録カードに書き直します。屋敷地などの配置をメモするときには、携帯用のフィールドノートより少し大きめの白紙のノートを用いました。スケッチは、カメラを用いた静止画や動画に比べて、時間を要し、情報量、かたちが限定されます。しかし、記録、記憶、コミュニケーションの手段として、次のような側面において便利な方法です。


現場の状況に対応、その後の記録
カメラを持ち込みにくい場所、状況で、紙と筆記用具があれば必要な情報を描くことができます。現場では簡単にメモし、あとで記憶のなかで具体的に再生したり、現場の全体的な構図を簡略化して1枚にまとめて示すこともできます。写真よりもスケッチのほうが公表しやすい場合も多い。


「保健センターでの不妊手術」(1989年)

スケッチ解説
1989年当時、バングラデシュでは人口増加抑制のため「家族計画」の普及がすすめられていた。筆者が滞在した村の近くの保健センターでは、毎月1回、希望住民に不妊手術(多くは女性、卵管結紮切除。男性は精管切除。)が行われていた。手術を受けた者には、1人につき175タカ、女性にはサリー、男性にはルンギー(腰巻)1枚が支給されていた。この図は、不妊手術が実施された日に保健センターを訪問し、その後、下宿に戻ってカードに記録したものである。(詳細は、6章「家族計画」をめぐる欲望、西川麦子『バングラデシュ/生存と関係のフィールドワーク』平凡社、2001、pp.179-213)

情報の抽出、解説
情景、対象の全てを面的に情報に収めることはできませんが、逆に必要な情報をラインとして抽出するので目的がはっきりします。補足説明も書きやすい。


「産後の部屋」(1989年)




「葬儀・墓」(1989年)

コミュニケーション、記憶
バングラデシュの村でのスケッチは、誰にも怪しまれずに、そこで時間を過ごす事ができる手段にもなりました。屋敷地の人々が集まり、腰掛をもってきてくれて、あれこれを話しかけられ、そのうちに私は、スケッチを始めます。周囲の人々は、描いている私を見るのにも飽きてくると、それぞれの日常の営みに戻ります。スケッチという作業をすることで、それほど取り繕わずに人々の暮らしや風景の中に存在することができます。また、手で書きうつすことによって集中して観察し、モノの細部の素材や肌触りが記憶にのこります。


「屋敷地」(1989年)


「住居南半分」(1989年)


「住居北半分」(1989年)


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