内容分析の大きな利点として挙げられるのは、他の社会調査の方法と併用しやすいことです。多数のレスポンデントを調査相手としたアンケート法による実査を準備中だとしても、長期間にわたるインフォーマントに向けての面接法によるフィールドワークを計画していたとしても、それらに併せて、内容分析を先行もしくは並行実施、あるいは、それらの社会調査の後に実施しても、何ら支障が無いどころか、相互に価値を高め合うことになり、大いに役立ちます。以下は、アンケート法あるいは面接法との併用のイメージを具体的に記します。
アンケート法との併用。例えば、特定のアイドルやタレントの研究を進めており、そのファン層にアンケート法による社会調査を準備しているケースを想定します。そして、実査で使用する質問紙を構想途中だとしましょう。そこで考えてみます。研究対象となったアイドルやタレント(もしくは彼女/彼の所属する事務所)がTwitterやFacebookなどのSNSやブログで情報発信してはいないだろうか、ファンクラブが存在しており、ウェブ上や紙媒体など広報手段を何か有してはいないだろうか、といったことです。アンケート法の実査に先だって、これらのマテリアルを内容分析しておけば、質問紙でファン層に尋ねる事柄がピント外れになりにくいはずです。一般には知られてはいないけれども、ファン層には自明な事柄を質問紙で尋ねることは、もちろん無意味ではありませんが、事前にそのことを知っているのと知らないのでは、質問によって発見できる情報の質に格段に差が生じてきます。そのアイドルやタレントが「大学受験で失敗した」過去を気にしており、ファンもそのことを気遣っているということ(例えば、受験以前には「大学」や「進学」という単語が高い頻度で出現しているのに、それ以降はほとんど出現しなくなった)を、何らかのマテリアルの内容分析で知っていれば、その知見に基づいて、質問紙でファン心理や共感の構造を浮かび上がらせる工夫が可能になってきます。
面接法との併用。例えば、民俗宗教の研究のために、離島の村で一夏かけてフィールドワークするケースを想定します。そして、参与観察を行う団体や訪問する祭礼等の詳細を調整途中だとしましょう。そこで考えてみます。その村の広報課や観光課、商工会議所、宿泊業者、レンタカー会社などが紙媒体やウェブサイトでその民俗宗教を扱ってはいないだろうか、その民俗宗教に係わるミニコミ誌などが過去発行されたことは無いだろうか、訪問者や旅行者のブログなどが開設されてはいないだろうか、といったことです。アンケート法の場合と同様に、面接法によるフィールドワークに先だって、これらのマテリアルを内容分析しておけば、インフォーマントたる村人へのインタビューがより充実することでしょう。研究テーマによっては、その村の禁忌(タブー)に抵触することがあるでしょう。関係者以外には許可されない場への参入や写真・映像撮影によって、インフォーマントを貶めたり、調査者自身に危険が降りかかることも大いにありえます。事前の内容分析によって、現地の情報を沢山掴んでおきましょう。フィールドワークのリスクとコストを低めることができます。
以上は、事前の内容分析の例ですが、事後実施であっても、内容分析は充分役立ちます。質問紙やインタビューによって得た知見を、改めて内容分析によって確認することができるからです。そのことで仮説の信頼性は大いに高まります。
理想を言えば、
@事前の内容分析、Aアンケート法や面接法など他の方法による社会調査、B事後の内容分析
といった三段階での実査がベストですが、@事前、B事後、だけであっても研究報告や卒業論文の質は格段に高まることでしょう。
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