社会調査工房オンライン-社会調査の方法
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8-2 内容分析のマテリアル(分析媒体)は逃げもしないし, 隠れもしない
8-2-3 ブログやウェブサイト, SNSなどネット上のコミュニケーション、紙媒体を電子化した商用データベース


 ウェブ上のメッセージやSNSなどインターネット経由のコミュニケーションも内容分析のマテリアルとして利用されることが多くなってきました。ネット経由のメッセージは、すでに電子化されていますから、入力の手間が省け、その点では有利なのですが、紙媒体とは異なり、その中身の利用や公表に伴う制約や問題があります。
  • 官公庁、学校、研究所、病院、企業など公的機関や団体、法人のウェブサイトにおけるメッセージ
  • 新聞や雑誌など紙媒体を電子化したデータベース
  • 個人のブログやウェブサイト、SNSなどネット上のコミュニケーション
 国や政府諸機関、都道府県や市町村などの官公庁や自治体のウェブサイトは、過去に遡ったファイルも保存され、更新頻度も高く、良く整備されているものが増えてきました。特に政府省庁のウェブサイトは情報量も多く利用価値があります。昔は紙媒体のみだった官報国立印刷局)もネット上で閲覧できますし、その他の白書など電子政府の総合窓口e-gov 白書・年次報告書等)も多種多様なものが見られます。
 全国紙や有力雑誌はバックナンバーの全てではありませんが、最新号をもちろんのこと過去に遡って電子化されたデータベースが拡充されつつあります。有料の商用データベースですから、個人の資格では接続時間に比例して課金されますが、大学図書館の利用資格があれば、図書館内の端末甲南大学図書館情報検索データベース)から利用できます。キーワードや刊行年月日によって見出しや内容を検索できますから、紙媒体と較べて分析の作業が大いにはかどります。ただし、収録期間が限られていることが多く、バックナンバーの全てにアクセスすることができないこと、コラムやエッセイなどで著作権が絡みデータベースには収録されない場合があることなど、電子化されたデータベースはあくまで紙媒体の一部に過ぎないことは留意する必要があります。
 個人のブログやウェブサイト、SNSなどネット上のコミュニケーションをマテリアルとして内容分析を行ない、研究報告や卒業論文を書く人も増えてきました。一般の人びとによる「生の声」を拾うことができますから、社会学としては大いに有用な情報源です。先ず、ブログやSNSでのコミュニケーション内容は日々増殖消長していますから母集団とサンプルの関係が不明瞭であることの認識を持ち、次に、SNSではもちろんのことですが、ネット上のブログなどでも研究成果の公表にあたってはメッセージを発信した私人の情報が特定されない匿名化や符号化が不可欠であり、個人ではなく全体としての統計的処理を目的として研究を進めるようにしましょう。20世紀の終盤、インターネットが極めて少数の研究者や市民活動家による学術色の強いネットワークとして開発され、登場した頃は、メールや私信以外のネット上のメッセージは全て、誰にでも公開公表することを前提として発信されてきましたが、人口の過半数が利用する現在ではネット上の作法を意味する「ネチケット」も変化しています。
 これらのメッセージやコミュニケーションは容易に入手することができる反面、インターネットを経由する情報の宿命として、当該ウェブサイトの管理者による判断や都合などでサーバー上から予告無しに削除されることがあります。「生の声」を拾うことができる有利さの反面、いつまでも現物が存在し続ける紙媒体のマテリアルと較べて、今しかない「生もの」である故の制約からは逃れられません。

 


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