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環境計測のための機器分析法 茶山健二
7章 クロマトグラフィー 流れで分離する
7-10  HPLC:測定装置
 図7・14に基本的なHPLC用装置の概念図を示しますが、送液ポンプで送られている一定流量の移動相(液体)の流れ中に試料注入部より注入された試料は、分離カラム、検出器を通り廃液槽またはコレクターに集められます。
図7・14 高速液体クロマトグラフの概念図
送液ポンプ
 モーター駆動でプランジャーの往復運動により移動相を吸引、吐出するポンプがよく使われており、低脈流で安定した送液性能が要求されます。圧力のかかりすぎによるカラムの保護、流路の液もれ検知のため、それぞれ圧力の上下限リミッタにより自動的にポンプを停止すると都合がよいです。
 移動相液体はメンブランろ過後脱気し、流路中で気泡が発生しないようにします。さて、GCと異なり、LCでは移動相の種類はもちろん、その組成によっても試料成分の保持は変化します。したがって、GCの場合のように多くの種類の固定相は必要でなく、移動相の選択により成分の保持を広範囲に変えることができるのが特徴です。
 移動相に終始単一または一定組成の混合溶媒を用いる方法を単一溶離とか均一濃度溶離(isocratic elution)といいます。この方法は簡単だが、遅く溶出する成分のピークほど幅が広くなります。早い溶出成分と非常に遅く溶出する成分が共存する試料の分析には適しません。しかし、固定相に強く保持される成分を早く溶出するように移動相を変える方法があります。この場合、移動相を不連続的に変える段階溶離(stepwise elution)と連続的に移動相の組成を変える勾配溶離(gra-dient elution)があります。この方法は組成の再現性がきわめて重要であり、また初期条件に完全にもどすために時間が必要となります。勾配溶離と同じ目的のために移動相流量を多くする方法もあるが、流量の再現性が重要となります。
試料注入部
 試料の注入はGCと同様にマイクロシリンジでセプタムを通して注入する方式と、一定内容積のループ内に試料を満し、流路バルブを切り換えて注入する方式(図7・15)があります。
図7・15 バッファループ法による注入
カラム (column)
 ー般分析用には内径2〜4mm、長さ5〜50cmの真っすぐなステンレス製のクロマト管が使われています。分取用には目的に応じて種々のサイズのものが用いられています。カラム充てん剤には表面多孔性粒子と全多孔性粒子があります(図7・16)。前者は空隙のない球状内核の表面を多孔性薄膜で覆ってあり、後者は粒子全体が多孔性で、球状のものと破砕状のものがあります。多孔性の部分が試料成分との相互作用に関与していて、表面多孔性粒子では平衡到達は速いのですが、試料負荷量が小さいです。現在、試料負荷量が大きく、分離効率のよいカラムが得られる内径3〜10μmの全多孔性の粒子、特にシリカゲルやポーラスポリマー系の充てん剤がよく用いられています。その固定相の種類により、分配、吸着、イオン交換、ゲルの代表的な四つのタイプのHPLCに分けられます(表7・1)。
図7・16 カラム充てん剤
検出器 (detector)
 HPLC用検出器のセルは内容積の小さいフローセルで、下記の検出器がよく用いられています。特に紫外吸収検出器は最もよく使われています。

(1) 紫外吸収検出器(ultraviolet absorption detector)
測定波長が固定のものと、連続可変のものがあります。感度は高く、移動相流速や温度の影響を受けにくく、勾配溶離が可能なため非常に便利ですが、紫外線を吸収する成分でないと直接検出できません。

(2) 示差屈折率検出器(differential refractive index detector)
移動相と試料成分を含む溶出液との屈折率の差を利用しているため、すべての試料成分を検出できますが、感度が低く、勾配溶離が不可能なため、分析用よりも分取用に適しています。

(3) 蛍光検出器(fluorescence detector)
蛍光性の成分を高感度で選択的に検出することができます。蛍光性でない多くの成分は、蛍光試薬と反応させ、蛍光誘導体に変換することにより検出可能となります。

(4) 電気化学検出器(electrochemical detector)
フェノールやカテコールアミン類のように、電気化学的活性物質を選択的高感度に検出できます。設定された電位で酸化あるいは還元により流れる電流を検出するもので、設定電位により検出される物質が決まります。

(5) 電気伝導度検出器(electric conductance detector)
イオン性の物質の検出に使用されていますが、この検出器は温度、移動相の種類と流速変化の影響を受けやすいです。

表7・8にこれら検出器の検出下限、温度の影響、勾配溶離の可・不可を簡単に示しました。
表7・8 HPLC用検出器の比較
検出器検出下限温度の影響勾配溶離
紫外吸収10-10g/ml少ない
示差屈折率10-7g/ml不可
蛍光10-11g/ml少ない
電気化学10-11g/ml困難
電気伝導度10-8g/ml不可
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