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modern american economy
5-5. IT革新と収穫逓増

担当:甲南大学 稲田義久


5-5-1 アメリカ企業の強さの秘密
 IT革命を体現しているといわれているアメリカの金融機関は、日本のそれと比較してきわめて競争力が強いといえます。アメリカの金融機関では、規模の経済または収穫逓増が実現できているといわれています。強さの秘密の具体例として、オンライン・バンキングを考えましょう。よく知られているように、オンライン・バンキングの開発・構築には膨大なコストがかかりますが、一旦システムが出来上がると、後の追加的な顧客にかかる費用はユーザーコードの付与とパスワード設定にかかる限界的なものだけです。システムの構築以後は、顧客が増えれば増えるほど限界的に発生する費用は低下するのです。まさに、収穫逓増の実現です。これがアメリカ社会で勝ち組となった産業や企業の特徴です。
 ただIT投資には巨大なコストがかかります。ですから、なかなか1社だけでは実現できません。先に見たように、90年代に急増したM&Aは、これとなんらかの関係があると思われます。M&Aによるコスト削減やリストラにより、アメリカ企業は規模の経済や収穫逓増を追及しているといえます。

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5-5-2 規模の経済をどのように定義するか
 企業の強さを表すキーワードとして、規模の経済または収穫逓増をあげました。ここではその意味を説明します。通常、経済学では経済の効率性を図る尺度として規模の経済性に注目します(コラム:規模の経済)。これは、すべての投入要素(input)が一定の比率で増加したときに、生産物(output)が相対的にどの程度増えるかで示されます。例えば、ある財が資本と労働で作ることが出来るとします。今、資本と労働を2倍に増やし財の生産量が2倍になったとすれば、これを収穫一定(2/2=1)の経済といいます。これが伝統的な規模の経済の定義でした。
 これに対して、Hanoch (1975: "The Elasticity of Scale and the Shape of Average Costs")は規模の経済をあらわすには次のような定義(コラム:規模の経済)のほうが適切であると指摘しました。すなわち、投入価格を一定としコストの最小化が仮定された場合の、総費用と生産量の関係によって定義されるべきとしたのです。すなわち、生産物を限界的に増加させるためには、全体のコストが限界的にどの程度上昇するかによって、規模の経済を再定義したのです。ここでは、収穫逓増が実現できていれば、規模の経済が実現できていることになります。
 熊坂・峰滝の実証分析によれば、この20年のアメリカ経済の技術進歩率(全要素生産性)は0.6%程度であったが、10%-15%程度の収穫逓増の経済になっていることが示されました(熊坂・峰滝『ITエコノミー』、日本評論社、2001年、参照)。これは注目すべき分析結果です。

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