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modern chinese economy
12-3. 中国の国際収支
担当:甲南大学 青木浩治 藤川清史


 1998-2000年の3年間、中国の外貨準備増加ペースはそれまでの300-400億ドルから一転して100億ドル未満へスローダウンしました(国際収支の概念やその他の技術的用語についてはコラム:国際収支の見方、外国為替市場介入を参照して下さい)。中国では1994年以後経常収支黒字が定着し、また海外からの直接投資も高水準で推移しています。仮にこの経常収支と直接投資純流入額の合計を「基礎収支」と呼ぶことにすれば、中国の基礎収支は1994年以後、慢性的な黒字となったわけです。ですから他の事情にして等しい限り、その基礎収支に見合う外貨準備増加があってしかるべきなのですが、1998-2000年の3年間では外貨準備はほとんど増えていません(図12-2)。

 この謎を解く鍵は直接投資を除く資本収支にあります。具体的には中国には法律に反したマネーの国外逃避(官僚の不正蓄財資金や国有企業経営者による国有資産横領資金の国外逃避)、貿易に携わる企業の輸出過少申告による外貨収入の蓄財、輸入の過大申告による外貨の過大取得と国外運用等が多く存在するようで、公式統計だけからは把握しきれないマネーの動きがあると言われています。そのピークが1997・98年のアジア危機時における資本逃避で(中国では「資本外逃」と呼ばれています)、巨額の資金が中国から国外へ流出した模様です。そしてその基調が1999年まで続きました(図12-2の直接投資(FDI)・政府・人民銀・銀行を除く資本収支の動きに注目して下さい)。

図12-2 中国の国際収支
図12-2 中国の国際収支
注) 基礎収支は経常収支と直接投資収支の合計、総合収支は外貨準備の増加に一致する。直接投資(FDI)・政府・人民銀・銀行を除く資本収支は総合収支から基礎収支、政府・人民銀行関連の資本収支、銀行関連の資本収支(銀行部門の対外純資産の変化により計算した)を引いた金額で、非銀行・非政府部門の資本収支とみなせる。
資料) IMF, International Financial Statistics その他。

 しかし、この基調は2001年から大きく変化しました。おそらく2001年からのアメリカの急速な利下げによる中国元での資産運用有利化が重要な要因だと考えられますが、近年、中国からの「資本外逃」は大幅に減少し、逆に流入超過に転じている模様です。

 第二に、2001年末のWTO加盟は規制緩和による対中国直接投資ブームをもたらすとともに、加工貿易を顕著に増加させました。そのため中国の経常収支は2001年の174億ドルから2002年には354億ドルへと倍増します。これに直接投資の激増が加わったわけですから、中国の基礎収支は大幅に改善するわけです(2001年の548億ドルから2002年の822億ドルへの改善)。その結果として中国の総合収支(=外貨準備増加)はこれまた大幅に改善し、2001年には470億ドル、2002年には755億ドル、2003年の8月までで783億ドルの黒字を計上しました。この総合収支黒字とは人民銀行以外の部門から生じたドル売り・人民元買いですので、人民銀行の反対取引がなければ人民元は米ドルに対して大幅に切り上がることになります。その圧力を人民銀行がドル買い・人民元売りで吸収することによって人民元の対米ドル為替レートが安定しているわけです。

 したがってこれだけの人民銀行による外国為替市場介入があると、中国の外貨準備は否が応でも増えていきます。そのため、中国の外貨準備は2001年より再び増加に転じ、その保有残高は現在日本に続いて世界第二の地位にあります。

 こうした外貨準備増加は日本を含む東アジアに共通する特徴です。図12-3は世界各国・地域の外貨準備残高の推移をグラフ化したものです。これによると近年中国だけでなく、日本や他の東アジア諸国の外貨準備が激増しており、全世界の外貨準備の4分の3を占めるに至っています。

図12-3 世界各国・地域の外貨準備(億ドル)
図12-3 世界各国・地域の外貨準備(億ドル)
注) その他の東アジアは韓国・台湾・シンガポール・タイ・マレーシア・インドネシア・フィリピン。
資料) IMF, International Financial Statistics.

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