経営財務論 |
上場企業や店頭登録企業[ 株式公開(上場)の意味]の株式は、日々取引され株価が変動しています。株価が変化することは、各企業の活動に大きな影響を与えますが、特に資本調達に直接的な影響があります。いわゆるバブル崩壊から今日に至る状況では、資本調達において難しい問題が生じています。 |
資本調達への悪影響 (1) 公募増資やハイブリッド証券の発行が難しい 投資家は、将来株式購入した企業の株価が上昇することで、利益を得ることができる。また、転換社債や新株引受権付社債を購入しても、将来、権利行使価格よりも株価が上昇することで利益を得られる。将来、株価が上昇すると予想される局面ではこれらの証券を新たに発行しても買い手を簡単に見つけることができ、資本調達が容易にできる。ハイブリッド証券に関しても転換権や新株引受権によって将来大きな利益が得られると予想されるので、その分券面利子率を低くして発行できる[社債による資本調達]。株価が将来上昇すると予測されない状況では、株式やハイブリッド証券は全く魅力のない証券となり、購入しようとする投資家はなく、この手段で資本調達を行うことは難しい。 (2) 含み資産が喪失し、企業の信用力がなくなる 企業は本業のための各種の資産だけでなく、各種の証券を所有している。特にわが国企業の多くは、株式持ち合い[ 株式持ち合い]により、他企業の株式を多く所有する。株価が上昇している局面では、株式の価値が上昇し多くの含み資産が生じて企業の信用力を高められる。反対に株価が下落した状況では、逆に有価証券の価値が下落し、含み資産がなくなり信用力が落ちるだけではなく、買い付け価格によっては評価損まで発生する。 (3) 転換社債や新株引受権付社債の権利行使が行われない ハイブリッド証券に付与されている選択権は、証券を発行後、株価が上昇して初めて行使される。それが行使されることにより企業は、転換社債の償還をする必要がなくなったり、新株発行にともなう資本調達ができる。発行時の予想に反して株価が上昇しなかったり、下落した場合、行使されるつもりでいた選択権が行使されず、企業の資本調達計画が大きく狂う。バブル崩壊後、日本企業の多くは転換されるつもりでいた転換権が行使されず、償還しなくてもよいつもりでいた転換社債の償還に迫られ苦労している[ 社債による資本調達]。 |
(馬場 大治) |