内容分析はデータセットの取り扱いという面では、アンケート法(質問紙法)にそっくりです。定量分析の手順で進められるということが、内容分析とアンケート法では共通しているからです。出来上がったSPSSデータファイルは質問紙の中身を入力したデータファイルと見間違うほどです。しかしながら、その実査の過程、すなわちデータの生成、構築という面では、内容分析とアンケート法とは天と地の差があります。アンケート法が調査相手として生身のレスポンデントの「動的」な反応や回答を扱うのに対して、内容分析はすでに存在している「静的」なメッセージを扱うからです。
調査相手である生きた人間としてのレスポンデントへアンケート法で調査を行えば、その一名について、年齢、ジェンダー、職業、学歴、居住地など、いわゆるフェースシート項目と、その人の意見や行動などを尋ねた項目が変数のかたちで記録されることになります。通例、SPSSデータファイルでは、それらを一名につき一行で数字や文字として保存するのです。集計や分析の時には、数字でのデータ保存の方が有利なので、ここでは数字行列の例を考えてみましょう。あるレスポンデントのデータが、23 1 1 3 1 2 1 という数字列だとします。これらは、「年齢」「ジェンダー」「職業」「学歴」「居住地」「自分がおしゃれだと思うか否か」「ファッション誌を読むか否か」といった質問への回答を変数に置き直した数字列です。予め定義しておいた変数値ラベルに従って、 23 1 1 3 1 2 1 は、「23歳」「女性」「会社員」「大卒」「神戸市居住」「どちらかといえばおしゃれだと思う」「毎月決まったファッション誌を買っている」と回答したレスポンデントのデータを入力した結果です。
この、 23 1 1 3 1 2 1 という数字列は内容分析のデータかもしれません。特定のファッション誌一冊を一行の数字列で表して、その情報は「巻数」「読者対象のジェンダー」「版元」「読者対象の年齢層」「刊行月」「美容整形広告頁数」「メイク特集記事件数」といった変数であったとしましょう。 23 1 1 3 1 2 1 は、「創刊からの23年経過」「女性誌」「ヤマネコ書房」「高校生」「1月号」「美容整形広告は2頁掲出」「メイク特集記事は1件掲載」ということかもしれません。数字行列の中身は、用いる項目すなわち変数とその変数値ラベルの定義次第によって変幻自在となりますが、特定の数字行が一名のレスポンデントもしくは一冊のファッション誌を表し、特定の数字列が「年齢」もしくは「巻数」などといったアンケート法や内容分析で得られた変数の具体的な変数値であるという構造は、まさに瓜二つです。SPSSデータファイルの数字行列を見せられただけでは、どちらのものなのかは判別がつかないほど似ており、同一であると言って良いでしょう。変数毎の単純集計や、変数間の関連を見出すクロス集計なども全く同じ手順で進めることができるのです。
しかしながら、アンケート法の調査相手であるレスポンデントは生身の人間です。実査前には調査に応じて下さるか否かも判りません。回答内容も意見や行動については調査日時や様々な外的内的な撹乱要因によって変わってきます。年齢、ジェンダー、職業、学歴、居住地といったフェースシート項目でさえも、レスポンデントの個人確認が困難な郵送法やウェブ法(ネット調査)では無回答であったり虚偽であったりする可能性があります。分析対象が生身であるがゆえに生じる「動的」な反応や回答が、決して少なくはない測定誤差となり、データセットの信頼性と妥当性を下げてしまう短所となるのです。それに対して、内容分析の対象は、8-1-1で述べたように「すでにこの世に存在している」メッセージですから、調査拒否や無回答、虚偽の回答ということはありえません。測定の手順さえ間違えなければ、常に完全なデータセットを作成できるという、分析対象が動かず「静的」であるゆえの長所があることが、大きく異なります。測定誤差は理論上は限りなくゼロに近づけることが可能です。この側面は、アンケート法を含めた他のあらゆる社会調査の方法と較べ、内容分析におけるデータセットの信頼性と妥当性を著しく高める利点なのです。
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