内容分析は、語られたあるいは記されたメッセージを扱うという点で、ハロルド・ガーフィンケルやハーヴェイ・サックスらによって創始されたエスノメソドロジー学派の研究法である会話分析や、構築主義で多用される言説分析に共通する部分があります。しかしながら、会話分析や言説分析が分析対象とするメッセージは、面接法など多くの質的分析の調査法と同様に、個別特定の限られた場で得られた情報であるという制約があります。加えて、会話分析などの場合は、研究に先立って事前に、日常の相互行為の場面での会話の音声や映像を記録しておく必要もあります。それに対し、内容分析の扱うメッセージは、 8-2-7のような場合を除き、「すでにこの世に存在している」訳ですから適切なサンプリングを施すことによって誤差の少ないデータを入手できますし、生データであるメッセージ自体を産み出す必要もないのです。
会話分析では、複数の語り手によって、「001 それで せんしゅうは」「002 せんしゅうのあれ(.) ですか」「003 そう あれですよ」「004 えっ(.) あれって(2) なんでしたっけ」「005 そう そう そう あれですね おもいだしました」というように織り成された会話を、相互行為のせめぎあいとして理解してゆきます。ここで、会話冒頭の数字は整理上の記号、括弧内の数値は沈黙の秒数、ドットは1秒に満たない沈黙を表す、会話分析におけるトランスクリプト記述規則です。「あれ」について複数回言及がなされており、「あれ」の発話直後に沈黙が計測されています。「あれ」を巡る特定と諒解が関心事であることが良くわかります。
「それで せんしゅうは」「せんしゅうのあれ ですか」「そう あれですよ」「えっ あれって なんでしたっけ」「そう そう そう あれですね おもいだしました」といった会話は、テレビジョンやラジオでのトーク番組でも、耳にしそうですね。会話分析同様、内容分析でも「あれ」の発話頻度を4回計測することができます。加えて、「そう」が3回繰り返された発話に「あれ」が同時存在しているということから「あれ」の注目度もわかります。内容分析の場合は、多数のメッセージを定量的に扱い、全体での分布や関連を調べるのが主眼であるために、個別特定な会話のトランスクリプトや言説の精緻な質的理解を目指す会話分析や言説分析の方がその細部への意味解釈は深まりますが、メッセージが分析対象であるという側面は、極めてよく似ています。
会話分析などは個別特定のメッセージの精密な理解という点では内容分析に優っていますが、研究の発案時点では8-1-1で述べたように「まだこの世に生まれておらず」、その個別特定なメッセージと、それらが含まれる母集団との関係が不明瞭です。つまり、調査法の制約上、当該の発話が、どの程度、代表的であるのか、例外的であるのかについては判断が付きにくいのです。内容分析では、多くの場合、母集団とそこから抽出されたサンプルという考え方を採用しています。「影響力のある週刊誌」の操作的定義として、ある年に刊行された発行部数上位四位までの週刊誌全号を母集団とするならば、そこから10分の1の比率で系統抽出を行い、10号毎の間隔で各誌5冊をサンプリングするという具合です。これを過去10年間にわたって実施すれば、併せて2000冊前後の母集団から200冊前後が分析対象として選ばれることになります。例えば、「21世紀の最初の10年間における影響力のある週刊誌群」のサンプルを設定することが出来るわけです。もちろん、手間暇を惜しまなければ、全数調査も可能です。
この系統的にサンプリングできるという側面はアンケート法と似ています。ただし、アンケート法は、現在もしくは未来に向かってはサンプリング可能ですが、過去については不可能です。10年前のレスポンデントに今、質問することは、どう頑張ってもできませんよね。内容分析は、その雑誌や新聞などの創刊号までならば過去にいくらでも遡ることができます。これこそが内容分析の大きな強みと言えます。
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